被爆70年の平和記念式典を2週間後に控えた2015年7月23日、広島市の松井一実市長が東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見し、「一度広島に来てみてもらえませんか。被爆者の思いを聞いてみませんか」などと世界の指導者に向けて訴えた。
参議院でまもなく審議が始まる安保法制について、長崎市の平和宣言では慎重な審議を求める文言が盛り込まれる見通しだ。対する広島市の宣言では安保法案には触れない方針で、被爆者団体からは反発の声も出ている。松井市長は、平和宣言の意義を「疑心暗鬼の議論を絶ちたい。もっと根源的なことを皆に知っていただきたい」などと強調し、理解を求めた。
「信頼関係を構築していただきたい」
会見では、ある記者が安保法案について「日本を戦争に導く」などと批判しながら、その是非を松井市長に質問した。松井市長は
「私自身は日本は決して戦争に向かうための対応をしているとは思わない。決してしてはならないという立ち位置だし、様々な国政上の努力も、平和を維持するための対応だという風に政治家は言っている。それを信じる」
と答え、法案に対する直接的な論評を避けた。ただし、
「問題は、平和を維持するため、国民を平和にするため、戦争のない状態にするために、どなたか分からない、要するに疑心暗鬼ですね。『自分たちが他国から攻められるか分からない。そういう状況にあるから備えをするんだ』という発想。それが今言われたように『日本を戦争に導くんじゃないか』というような誤解を生じると思う」
とも指摘した。
平和宣言で安保法案に言及しない理由を説明する中でも、
「私は、そういった疑心暗鬼の議論を絶ちたい。もっと根源的なことを皆に知っていただきたい、ということで、平和宣言をする」
などと「疑心暗鬼」という言葉を何度か口にしながら、指導者間の信頼醸成を訴えた。
「世界の為政者に向けて、そういった(疑心暗鬼の)世界を作らないように、信頼関係を構築していただきたい。その思いをしっかりしていただくために、一度広島に来てみてもらえませんか。被爆者の思いを聞いてみませんか。ここで申し上げた文化・経済、いろいろな形で発展してきた都市が、あの1日の、あの1発の爆弾で全てなくなったんですよ?もし、そういうことが起こると思っていたら、その当時の人は原爆を落とす気になったでしょうかね?そのとき、分からなかったんじゃないかと思うんですね」
「だから、為政者全てに考えていただきたいということを強く訴える。そういう意味で、あえて安保法制に触れなくても、私の思いは伝わる。そういうことで申し上げている」