学校での色覚検査が全国的に復活しているが、2015年7月4日、仙台市で開かれた国際色覚学会で、日本の2人の医師が、現在の検査には限界や問題があると指摘した。
各国の色覚、色彩科学の研究者を前に、名古屋大学大学院情報科学研究科の宮尾克教授(公衆衛生)が日本の色覚検査の歴史を報告した。1958年から国際的に著名な「石原式検査表」の学校版を用いた検査が導入され、石原表を誤読した子どもは即「色覚異常」とされ、大学入学や就職試験で差別された。これを疑問視した高柳泰世医師(眼科)らの努力で近年、差別が激減したことを紹介した。
小型船舶免許検査の実例紹介
色覚異常の程度や種類は、色を並べるパネルD15や精密機器アノマロスコープ検査で診断する。また近年、その人が見えにくい色の組み合わせを知るCMT検査も開発されている。
宮尾さんたちは石原表を誤読した男性を対象に、パネルD15、CMT検査と、実際の色の識別能力との関係を調べた。識別には各12色の色鉛筆と電気配線コードを用いた。
その結果、2つの検査のどちらかで「異常」と判定された人の8~9 割が色鉛筆と電気配線コードを正しく識別できた。宮尾さんは「日常生活での色の識別力は2つの検査法でも不正確なので、実際の対象を用いた識別テストで判断すべきだ」と強調した。
2人目の高柳医師はその実例として、日本の船舶免許について発表した。モーターボート選手希望の中学生が色覚検査で落ち、高柳さんに相談に来たことがきっかけだった。米国やオーストラリアでは制限がないのに、日本では1933年の小型船舶免許の改正以来、モーターボートの操縦免許はパネルD15検査合格が必須になっていた。
衝突を避けるためにはボートの左右にある赤、緑灯を識別する必要があるとの理由だが、実際にテストをしてみると、パネルD15検査で間違えた人のほとんどが夜間でも赤、緑灯をきちんと識別できた。
高柳さんは運輸省(当時)に掛け合い、パネルD15でなく実際の識別テストの導入を働きかけた。年4万5000人のうち識別テストに落ちた150人には、2004年から昼間限定の免許を出すよう改善が進んだ。高柳さんはまだ制限がある大型船舶免許での制限緩和にも取り組んでいる。
「石原式検査表」を高く評価している研究者からは質問も出た。高柳さんは「検査そのものが悪いのではなく、日本の使い方が悪かった」と説明した。
(医療ジャーナリスト・田辺功)