スズキの経営を30年以上担ってきた鈴木修会長兼社長(85)が、ついに社長のイスを譲った。2015年6月30日、東京都内で記者会見し、社長職を退いて後任社長に長男の鈴木俊宏副社長(56)を充てる人事を発表した。
強烈なリーダーシップでスズキをグローバル企業に育て上げた鈴木修氏。とはいえ、高齢なだけに、「ポスト修」にどう道筋をつけるかが最大の課題とされていた。新社長誕生で次世代の経営体制へ一歩踏み出した形だが、当面、修氏が大きな影響力を持ち続けることになりそうだ。
「アルト」「ワゴンR」で強み
スズキの2代目社長の娘婿となった修氏は1978年に社長就任。これ以降、「アルト」や「ワゴンR」など、小さい車づくりで強みを発揮し、国内の軽自動車市場で首位争いを演じてきた。その一方、1980年代にいち早く新興国のインドに進出し、同国でトップシェアを握るなど、スズキの成長を主導してきた。業界の内外で「カリスマ経営者」の評価を得る一方、後継者問題では「つまづき」が目立ってきた。
修氏は70歳を迎えた2000年、社長を退いて代表権を持つ会長に就任。しかし、後任の社長が2代続けて「健康上の理由」で退任する異例の事態に見舞われた。このためリーマン・ショック直後の2008年12月、「景気が良くなるまでは」と社長への復帰を発表し、「会長兼社長」として、スズキの経営を引き続き主導してきた。
30日の記者会見で修氏は今回の人事について「若返りを図りたいということもあり、(社長交代を)決断した」と説明。スズキは売上高が3兆円を超える大企業に成長しており、「企業規模からすると、ワンマンとか、独裁というのは限界を超えている」とも語った。カリスマ社長の後を継ぐ鈴木俊宏氏は「『中小企業のおやじ』(修氏)に依存してきた体質を脱却するには一人の力ではできない」と語り、他の役員、社員の協力を得ながら経営を担っていく考えを示した。
世代交代は緩やかに進むことに
俊宏氏は後任社長の本命候補と見られてきただけに、禅定自体には意外感はないものの、社長交代のタイミングは修氏の想定より遅れてしまったとの見方が強い。背景には独フォルクスワーゲン(VW)との提携解消問題がある。
スズキは環境技術の確保などのため、2009年12月、VWと資本・業務提携をすると発表。VWがスズキ株を20%弱保有することになった。しかし、その後、スズキが想定した環境技術が得られず、両社間の対立が深まり、スズキは2011年11月、株の返還を求めて国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てていた。
しかし、3年半が経過した今も結論は出ておらず、同問題は宙に浮いたまま。修氏は「こんなに遅くなると思っていなかった。ここまで長くなると、もう待ちきれない」として社長交代に踏み切った。本来はVWとの提携解消にめどをつけ、VW以外との提携が模索できる環境を整えてから俊宏氏にバトンタッチしたかったようだ。
ただ、社長交代後も修氏が引き続き最高経営責任者(CEO)を務め、「(修氏が議長の)取締役会で経営の基本方針を決め、業務執行は新社長を中心に進めてもらう」と説明。また、「対外的な仕事に取り組んでいきたい」とも語り、他社との提携問題で引き続き指導力を発揮する考えを示唆した。当面は修氏が強力な権限を握り続け、世代交代は緩やかに進むことになりそうだ。