市街地の一般公道を閉鎖し、F1モナコグランプリのような「公道レース」の開催を目指す「モータースポーツ振興法案」が、自民党国会議員有志のモータースポーツ振興議員連盟(古屋圭司会長)が議員立法で今国会に提出する見通しになった。日本ではこれまで公道を使ったレースが開催された実績がなく、欧米に比べると「モータースポーツ後進国」だった。
しかし近年は、電気自動車によるフォーミュラカーレース「フォーミュラE」の世界選手権が、史上初めて全戦市街地の公道で行われるなど、モータースポーツを取り巻く環境は変化している。沖縄県ではスーパーGTレースを公道で開催する計画が具体化しており、日本でも公道レースが実現するのは夢ではない。
タイムを競う「ラリー」は実現可能だった
日本ではこれまでも郊外の林道などを閉鎖し、市販車ベースの競技車が決められた区間を1台ずつ走ってタイムを競う「ラリー」は実現可能だった。F1と並ぶ世界最高峰のモータースポーツ「世界ラリー選手権(WRC)」が北海道で開催された実績がある。だが、複数の競技車が同時に走って順位を競う「レース」が公道で行われたことはない。
その理由は、日本ではモータースポーツが暴走族と混同される時代があり、都道府県警が道路の使用許可を出さなかったためだ。しかし、欧州ではレースやラリーが身近にあり、WRCやF1ドライバーはサッカー選手らと並ぶ国民的な英雄となっている。
「日本は世界有数の自動車輸出大国で、日本経済は自動車産業が支えている。しかし、その割には自動車文化やモータースポーツへの関心の低さ、地位の低さは驚くばかり」「欧州のレースでは国王が旗を振り、優勝者にはナイトの称号が与えられることもあるが、日本ではレースで優勝しても新聞にすら載ることがない」と、モータースポーツ振興議連の議員は嘆く。
今回、自民党が議員立法で成立を目指す「モータースポーツ振興法案」は、「モータースポーツは国民に夢と感動を与えるとともに、地域の活性化、関連産業の発展、青少年の健全な育成、自動車の安全な運転に必要な技能と知識の習得に資する」と定義。(1)公道レース開催の円滑化(2)モータースポーツへの参加等の機会の充実(3)国民の関心と理解の増進(4)モータースポーツ産業の育成(5)観光分野の活用――などを進める。国家公安委員長、総務相、文部科学相、経済産業相、国土交通相が主務大臣となり、具体的な政策を進める。
地元自治体や住民の理解が必要
一般公道を一時閉鎖し、クローズトコースとして使用するレースはF1モナコグランプリなどが知られるが、恒久施設としてサーキットを新設するよりも設備投資や維持費がかからず、市街地コースとなるため集客効果が高いといったメリットがある。とりわけ近年は電気自動車のフォーミュラEが登場。F1のような排気音や排ガスが出ないため、史上初めて全レース市街地の公道レースが実現し、ロンドン、ベルリン、モナコ、マイアミ、モスクワ、北京など10都市を転戦している。「観客にとって交通の利便性が飛躍的に向上するだけでなく、大都市のランドマークを背景にフォーミュラカーが疾走するかつてない光景と興奮を味わえる」(関係者)という。このレースは日本でも民放がテレビ放映しており、東京が加わったとしても、少しも違和感はない。
日本でもこれまで1990年代初頭に北海道の新千歳空港周辺でF1開催が検討されるなどしたが、陽の目を見なかった。しかし、近年は沖縄県豊見城市でスーパーGTの公道レースが計画されるなど、モータースポーツを観光や地域振興に生かそうとする動きが具体化している。
もちろん危険や騒音が伴うモータースポーツの市街地開催は地元自治体や住民の理解が必要だが、健全なモータースポーツは地域振興だけでなく、交通安全教育など様々な波及効果も期待される。いずれにせよ、今回の法案が成立すれば、日本でも公道レースが実現する可能性は格段に高まるだろう。日本の自動車文化の成熟に寄与するのは間違いない。