政府が「女性活躍加速のための重点方針2015」を決定した。
安倍晋三政権は女性の活躍を看板政策の一つに掲げている。世界経済フォーラムの男女格差ランキングで、日本は調査対象国142か国中104位と、先進国の中で超低水準に甘んじているが、重点方針で女性の地位向上は進むか。
来年度予算獲得の大義名分に
全閣僚で構成する「すべての女性が輝く社会づくり本部」(本部長・安倍晋三首相)が2015年6月26日に決定した。政府が女性政策に特化した方針をまとめるのは初めてだが、安倍首相の要請を受け、内閣府が各省庁の提案をまとめる形で作成したもので、綿密に積み上げた政策というより、「来年度予算編成に向け、各省の予算獲得の大義名分の色合いもある」(霞が関関係者)。
重点方針は、(1)女性参画拡大への取り組み、(2)社会の課題解決を主導する女性の育成、(3)女性活躍のための環境整備、(4)暮らしの質向上への取り組み、(5)女性活躍の視点からの予算編成の調整--の5本柱で構成。具体的な施策では、職場でのマタニティーハラスメント(マタハラ)防止が大きな目玉だ。
安倍首相が決定した閣僚会合で「関係閣僚が一丸となり、マタニティーハラスメントなどあらゆるハラスメントの根絶や、ひとり親家庭への支援など、女性活躍のための基盤となる施策を充実し、推進してほしい」と述べ、マタハラを真っ先に取り上げたことにも、思い入れがにじむ。
マタハラは、妊娠や出産を理由に、職場で解雇や降格などの不利益な扱いを受けることで、その対策として重点方針は、事業主に対し相談窓口の設置など被害防止策を義務づける法整備を来年の通常国会で検討することを明記した。
様々な分野で女性が活躍できるようにするための諸対策も列挙。女性の理工系人材(リケジョ)の育成に向けては、産官学が連携して進学や就職を一貫して支援するほか、大学や高等専門学校での奨学金や授業料免除、女性医師の復職や勤務態勢の柔軟化、学内保育所の設置など大学教員や大学生向けの保育サービス整備などを盛り込んだ。
長時間労働を是正するため、ワーク・ライフ・バランスを推進する企業を認定し、官公庁が備品購入などで優遇する仕組みも検討するとし、女性の社会進出を妨げる一因と指摘される配偶者控除などの税制も2020年までの早い段階で見直す考えも示した。
非正規労働者はもっと不利
司法の世界では、2014年10月23日に最高裁でマタハラ裁判の判決が言い渡され、妊娠に伴って軽易な業務への転換を求め、副主任を外された女性が、育児休業の終了後も副主任に復帰出来なかったことを不当と訴えた事案について、育児休業から復帰後の不利益な取扱いの判断として、「妊娠中の軽易業務への転換後の職位等との比較ではなく、軽易業務への転換前の職位等との比較で行うべき」だと明快に述べている。
判決を受け、厚生労働省は「原則として、妊娠・出産・育休等の事由終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合」はマタハラにあたるとの考えを示している。
ただ、個々の職場ではマタハラをなくすのは容易でない実態がある。保険ショップ「保険クリニック」が実施した妊娠・出産経験のある20~40歳の女性500名を対象にしたアンケートによると、16%が職場でマタハラを受けた経験があり、最も多かったのは「解雇や契約打ち切りの話をされた」で、契約社員や派遣社員に多かったという結果がでている。
大企業や国、地方自治体に女性登用の数値目標を求める「女性の活躍推進法案」が今国会に提出されており、成立する見通し。同法により、従業員301人以上の企業は、新規採用や管理職に占める女性比率など、数値目標を含む計画の作成と公表が義務付けられる。
重点方針は、同法成立後の女性登用の実効性を高めることを視野に入れている。ただ、経営資源が限られる中小企業がどこまで取り組めるか、また、女性に限らず不利益な扱いが横行する非正規労働者に実効ある措置がどこまで波及させられるか、政府の本気度が問われることになる。