2020年東京五輪のメイン会場になる新国立競技場の総工費が、3000億円にも上るとされ、ネット上でも、怒りの声が相次いでいる。関係者によると、巨額になった理由は、かなり根深いところにあるともいうのだ。
「最初に見た時、『これは金がかかるぞ』と言ったのを覚えている」
東京新聞の2015年7月9日付朝刊によると、五輪招致を進めた石原慎太郎元東京都知事は、新国立競技場のデザインについて、インタビューでこう説明した。
石原慎太郎氏「これは金がかかるぞと思った」
競技場がこれほどの高額になったのは、キールアーチという弓形の柱2本に1000億円もかかるためとされている。石原氏は、自分ではなく、建築家の安藤忠雄氏がデザインを選んだと他人事のように語ったが、当初からかなりの費用がかかることが分かっていたわけだ。
13年9月の招致当時は、競技場建設に1300億円ほどかかると見積もられた。しかし、10月には、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)の試算で、倍以上の3000億円もかかる見通しが明るみに出た。その後、デザインに修正が加えられて、14年5月の基本設計では、1625億円にまで下がった。しかし、資材高騰などのため、開閉式屋根や一部座席の設置を五輪後に回すことになっても費用がかさみ、結局、JSC が7月7日に開いた有識者会議で2520億円にすることで落ち合った。それでも、東京都世田谷区の一般会計予算と同じ規模だ。
ただ、ラグビーやサッカー、コンサートなどの利害関係者が集まる会議だけに、屋根や座席の増設を望む声は多く、最終的には3000億円を下らないともされている。費用ねん出のメドもまだ立っておらず、国や都が押し付け合っている状態だ。そのうえ、競技場の維持費などが建設後の50年間で1000億円もかかると試算されており、これからの若い世代に負担が重くのしかかる恐れも出てきた。
「スタジアムだけで通常の3倍の高価格」
巨大アーチが採用された背景には、費用負担についての責任の所在が当初から不明確で、五輪招致ありきのドンブリ勘定で奇抜なデザインが採用されたことがある。
開催が決まって初めて、巨額な建設・維持費用が分かったわけだが、安倍晋三首相は13年9月の最終プレゼンで、「他のどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアム」と国際公約していた。このため、デザインの根本的な見直しができなかったらしく、菅義偉官房長官も15年7月8日の会見で、「安易にデザインを変更することは国際的な信用を失墜しかねない」と説明に追われた。
しかし、新国立競技場の総工費が3000億円にも膨らんだのは、アーチのためばかりではないというのだ。
開催が決まった当時に都知事だった作家の猪瀬直樹氏はツイッターで、「なぜキールアーチと関係ないスタジアムだけで通常の3倍の高価格なのか、不可解。資材高騰では説明がつかない」と疑問を呈した。そして、旧国立競技場の解体工事に際して、入札に官製談合があった疑惑が月刊誌に書かれ、それは新国立競技場の建設でもありうるとされたとして、フェイスブックでは、「ゼネコンとの随意契約なのだから第三者機関に検証する機会を与えないで決定したのは、アンフェアな問題を抱えているからと疑われも仕方ない」と指摘した。
もちろん、今回に官製談合があったという証拠はまったくないが、政府が高額な費用のまま押し切ろうとする背景には、景気を公共事業で支えたいという思惑がある可能性はありそうだ。