安倍首相の老獪な対応
財務省以外の他の省庁では、これまでも異例の人事はないわけでなかった。筆者は、官僚時代に総務大臣補佐官をしていた時、総務事務次官人事を目の前で見ていた。事務方のもってくる人事案について、当時の竹中総務大臣は首を縦に振らなかった。
ただし、通常の場合、官僚が人事介入されると、政治家に対し、リーク、悪口、サボタージュという「武器」で政治家を攻めるので、政治家は人事に口出ししようとしない。
各省の事務次官をその省出身者に限定しているのは、先進国の中で日本ぐらいしかない。事務次官の一定割合を外部登用するのが普通である。そうした国際常識からみれば、安倍首相は田中氏でなく他の人を財務事務次官に指名してもよかった。しかし、もしそうしたら、それこそ安倍首相へ猛烈な攻撃があっただろう。第1次安倍政権では、公務員改革をしたら、一部官僚から「倒閣運動」になると脅され、実際に第1次安倍政権はすぐ潰れた。
今回、安倍首相の老獪なのは、外部登用ではなく、財務省出身者を使って、自らの人事力を見せつけたところだ。これが、同期3代連続の事務次官ということになっている。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。