金融機関に10年以上預けたまま取引がない「休眠預金」を福祉や教育など民間の公益活動に利用しようと、超党派の国会議員連盟が今国会で議員立法の成立を目指している。休眠預金の活用は、民主党政権だった2012年以降、実現に向け政府内外で議論されたが、政権交代で頓挫した経緯がある。
自民党、公明党を中心に2014年に発足した超党派議員連盟の法案作成は最終段階に入っており、早ければ開会中の通常国会に提出され、成立する見通しだ。休眠預金の国会審議は安保法制に比べれば注目度は低いものの、個人の私有財産にかかわる問題だけに市民の関心を集めそうだ。
超党派の「休眠預金活用推進議員連盟」
休眠預金とは「銀行など金融機関の口座で長期(10年間)にわたって入出金などの異動がなく、本人の所在が確認できない預金」と、全国銀行協会が1985年に定義した。金融機関の非公表データによると、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫の金融機関で毎年度約1050億円の休眠預金が発生し、約4割に当たる約430億円が預金者の申し出によって払い戻されている。しかし、預金者が名乗り上げないまま、10年以上放置された預金が毎年500億~600億円発生しているという。
全国銀行協会は休眠預金が発生した場合、預金残高1万円以上の口座については預金名義人の住所等に郵送で通知するルールを定めている。しかし、預金者が確認できなかった場合は、「税務会計の処理に基づき、金融機関の利益金(雑益)に計上している。もちろん預金者から請求があれば、必ず払い戻しをしている」(大手金融機関)という。休眠預金の1口座当たりの残高は約9000円と小額だが、本来ならば預金者の財産であるはずの年間500億~600億円が行き場を失い、会計上は金融機関の利益になっているわけだ。
この休眠預金を金融機関の利益とせず、民間の公益活動に役立てようという動きは、2012年に民主党政権で始まったが、自民党への政権交代で一時中断。その後、2014年4月に自民、公明両党を中心とする超党派の「休眠預金活用推進議員連盟」ができ、具体的な検討が進んだ。
「最終異動日から10年を経過した預金」
休眠預金を官民で活用する先例は海外にある。米国では休眠期間3年で預金を金融機関から州政府に強制移管し、州予算に活用している。英国は休眠期間15年、フランスは同10年で、それぞれ管理機関や預金供託公庫に移管し、英国は地域で活動するチャリティ団体に提供。フランスは国家予算で活用している。韓国は休眠期間5年で管理財団に移管し、低所得者向け福祉事業などの支援金として活用しているという。
超党派議員連盟が作成を進める法律案によると、休眠預金は「最終異動日から10年を経過した預金」と定義。この休眠預金を預金保険機構に移管し、国家予算ではなく、民間の公益活動事業に活用する方針だ。
具体的には「人口の減少、高齢化の進展等の経済社会情勢の急速な変化が見込まれる中で、行政が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的に、民間の団体が行う公益に資する事業」とされ、(1)生活困窮者の支援(2)子供、若者の支援(3)地域活性化の支援――などを想定している。内閣府が監督する「指定活用団体」などを通じ、公募で決定する全国の一般財団法人やNPOなどに、必要な資金を助成したり、貸付、出資などを行うという。議員連盟は、難病の子供を抱える家族への支援、過疎地のお年寄りの雪下ろしの支援などを挙げている。
もちろん、本来は預金者の私有財産である休眠預金の活用には慎重な意見も多い。英国や韓国では、休眠預金の活用に合わせ、預金者が休眠口座の情報をインターネットで検索できるシステムを構築した。預金者が自分の休眠口座を発見した場合、金融機関から直ちに払い戻しを受けられるようにするためだ。しかし、日本では今のところ、預金者が休眠口座の情報を照会できるオンラインシステムの整備は議論になっていない。
休眠預金を福祉や教育などに活用するには「国民の理解が必要になるとともに、休眠預金の発生を可能な限り減少させる試みも必要だ」(大手金融機関系の総合シンクタンク)という指摘もある。全国銀行協会は法制化に当たり、「これまで同様、休眠預金の引き出しが可能である点を、政府は国民に周知徹底する必要がある」と自民党に求めている。