韓国が「朝鮮半島からの強制徴用が行われていた」などとして世界文化遺産への登録に反対していた「明治日本の産業革命遺産」は、審議が先送りされた末、韓国との「ギリギリの調整」(岸田文雄外相)で正式に登録が決まった。だが、この玉虫色の決着は日韓関係に火種を残すことになりそうだ。
登録が決まった世界遺産委員会の場で、日本代表は登録施設の一部に「意思に反して連れてこられた」朝鮮半島出身者がいたことを認める発言をしたが、日本側の認識では、これは韓国側が主張する、「強制労働」ではないという。だが、韓国側では早くも「誰が見ても『強制労働』」だという声が上がっている。日本側が事実上韓国側に譲歩してしまったとも言え、安倍晋三首相のツイッターやフェイスブックには「第2の慰安婦問題じゃないか」といった批判が殺到。「炎上」状態だ。
韓国の解釈は「厳しい環境の下で強制され労役した」
問題だとされているのは、世界遺産登録決定後の日本の佐藤地(くに)ユネスコ政府代表部大使の発言。佐藤氏は、「1940年代にいくつかの施設で、意思に反して連れてこられ(brought against their will)、厳しい環境の下で働かされた(forced to work under harsh conditions)」多くの朝鮮半島出身者がいたことと、第2次大戦中に日本政府も徴用政策を行っていたことを理解できるような広報施設を設けるなどの取り組みを行うことを表明した。
この直後の会見で、岸田文雄外相は、
「我が国代表の発言における『forced to work』との表現等は、『強制労働』を意味するものではない」
と明言したが、韓国側は全くそう受け止めていない。聯合ニュースによると、韓国政府は非公式の韓国語の翻訳文を通じて、文言を、
「本人の意思に反して連れてこられ、厳しい環境の下で強制され労役した」
と解釈。韓国のCBSテレビは、
「外務省内部では『against their will』や『forced to work』などの英語原文を見ると、誰が見ても『強制労働』に読み取れるため、(日本側が)これを否定するのには呆れるばかりだという反応だ」
と伝えている。
この「文言が『強制労働』に読み取れる」問題は、日本側の会見でも出た。7月6日午前の記者会見で、菅義偉官房長官は、
「強制労働ではまったくない旨、岸田大臣から明確に述べている」
と述べるにとどめ、午後の会見では、
「(国民総動員法に基づいて定められた)国民徴用令に基づく朝鮮半島出身者の徴用が行われたことを記述したということ。強制労働を意味するものではないということを、かねてより申し上げている」
と述べた。やはり「forced to work」がなぜ「強制労働ではない」のかは分かりにくい。そもそも徴用と「強制労働」のどこがどう違うのかもはっきりしない。しかも「強制労働」には暴力的に連れてこられたというイメージがつきまとい、日本側の説明は世界では通りにくい。