金融政策を担う日銀の異変に市場が戸惑っている。2015年6月19日の金融政策決定会合で会合の開催ペースを減らすことを決定したほか、これより前の10日に国会で黒田東彦総裁が所管外の為替に言及して相場を急変動させた。
アベノミクス「第1の矢」に何が起きているのか。
円安のデメリットを意識する声が広がりつつある
金融政策は現状維持を決めた19日の決定会合。これだけなら、全くの予想通りで終わるところだったが、市場が驚いたのは、2016年から会合の開催を年14回から年8回に減らすという決定だった。
物価や経済成長について審議委員の予想をまとめる「展望リポート」を、現在の年2回から4回に倍増することで、日銀は「情報発信のさらなる充実を図る目的だ」と説明する。しかし、政府関係者は「黒田総裁には自らの発言が市場に正確に伝わらないジレンマがあったのでは」と明かす。
そうした観測の元になったのが、決定会合に先立つ6月10日の国会での黒田総裁の発言と、市場の反応だ。
「さらに円安になるのは、普通に考えればありそうにない」。衆院財務金融委員会で黒田総裁が実効為替レートについて自説を展開すると、市場に衝撃が走った。この発言の前、1ドル=124円台半ばだった円相場が一気に2円弱も急騰した。
総裁はその日のうちに関係閣僚に相場を動かそうという意図はなかったと釈明したが、過去に通貨政策のトップである財務省財務官を務め、「通貨マフィア」の異名を取った「為替のプロ」。市場が「失言」ではなく「口先介入」と捉えたのも無理はなかった。
総裁の国会出席は今年に入って20回以上と、世界の主要な中央銀行総裁に比べ、市場に言葉を発信する機会は圧倒的に多い。このため、日銀内外から、総裁の「対話疲れ」を懸念する声は以前から出ていたといい、決定会合を減らすことになったとの観測が生まれた。
ただ、総裁発言が政策の変化の兆しではないか、との疑念も捨てきれない。
もともと日銀内には円安を肯定的に捉える考え方が支配的だった。しかし、ここに来て「円安に伴う輸入物価の上昇が家計に悪影響を与える」などと円安のデメリットを意識する声が広がりつつある。
実際、6月以降、弁当やパスタ、文房具など、日用品の値上げが相次いでいる。原油安に伴う電気料金の値下げなどで消費者物価は全体としては横ばい状態にあるが、消費者マインドを示す消費者態度指数は4、5月と2か月連続で悪化している。
こうした見方の背景に、米国の存在もちらつく。米国では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉や来年の大統領選挙の行方ともからんで、ドル高に対する産業界の不満がくすぶっている。市場には「米国から日本にこれ以上の円安は容認できないと非公式な働きかけがあったのでは」(外資系証券幹部)と訝る声もある。