政府は2015年6月22日の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で、2020年度までの財政健全化計画を盛り込んだ「骨太の方針」の素案を提示し、30日、閣議決定した。
歳出抑制額の目標を盛り込むかどうかをめぐり、甘利明経済再生担当相と麻生太郎副総理兼財務相、稲田朋美・自民党政調会長が激しいつばぜり合いを演じたが、目標ではなく歳出抑制額の「目安」を書き入れることで決着。計画はそれぞれの顔を立てた妥協の産物となり、「目安」が歳出膨張の歯止めとなるかは見通せない。
「経済再生なくして財政再建なし」の基本方針
「(財政健全化計画は)私の主張そのものだ」(甘利氏)
「党の提言をきちんと受け止めて作っていただけた」(稲田氏)
素案公表後、別々に記者会見した甘利氏と稲田氏は、財政健全化計画に自らの主張が反映されたと胸を張った。
計画策定当初、甘利、麻生、稲田の3氏は「経済再生なくして財政再建なし」との基本方針や、消費税率10%超への引き上げを封印することでは一致していた。足並みが乱れ始めたのは、甘利氏が所管する経済財政諮問会議の民間議員が、政府の試算を上回る税収増によって財政再建を進める方針を打ち出したことがきっかけだった。
麻生氏は、民間議員の税収増の見通しを「楽観的すぎる」と批判する意見書を経済財政諮問会議に提出。税収増に過度に依存するのではなく、歳出抑制を中心に据えた計画にするよう主張した。経済財政諮問会議では、財政健全化の指標である基礎的財政収支を2020年度に黒字化するという従来からの目標堅持が早々に決まり、2018年度に赤字幅を国内総生産(GDP)比1%程度に縮小する「中間目標」を設定する方針も固まっていたが、麻生氏の意見書は「さらに具体的な目安が必要」と歳出額の目標も設定するよう求めるものだった。
あちこちの顔を立てる
稲田氏も民間議員の提案を「当てにならない成長を当てにした雨乞い」と痛烈に批判。委員長を務める自民党の財政再建に関する特命委員会で、歳出額の目標設定を求める提言をとりまとめ、安倍首相に提出した。
これに対し、歳出抑制で景気が下押しされる事態を懸念した甘利氏は「税収の伸びと無関係に歳出削減額を決めるべきではない」とけん制。3者とも譲らず、調整は6月22日の経済財政諮問会議直前までもつれ込んだ。
稲田氏がまとめた提言は党議決定されて首相の手に渡っており、甘利氏もまったく考慮しないわけにはいかない。そこで、落としどころとして採用されたのが、安倍政権が過去3年間で一般歳出の伸びを1.6兆円、うち社会保障費の伸びを1.5兆円に抑えた実績を踏まえ、「2018年度までその基調を継続する」と書き込むことだった。金額が明記されたことで、麻生、稲田両氏の主張を取り入れたことになる。ただし、歳出抑制額はあくまで目標ではなく「目安」と位置づけ、甘利氏の顔を立てた。
素案の提示後、甘利氏も稲田氏も上機嫌だったが、計画はまさに玉虫色となり、1.6兆円の「目安」がどれほどの効力を持つのかは不明確になった。財務省は毎年の予算編成過程で「目安」を一定の歯止めにしたい考えだが、景気回復に伴う税収の上ぶれをあてにして、与党内では既に歳出圧力が高まっている。財政再建の道筋は依然、不透明のままだ。