走行中の新幹線で71歳の男が油をまき散らして焼身自殺した事件は、52歳の女性が巻き添えで死亡し、26人が重軽傷を負った。新幹線としては過去に例のない規模の事件で、新幹線として初めての列車火災事故に認定された。2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、テロ対策と利便性とのバランスに苦慮することになるのは確実だ。
そんな中で議論が広がりつつあるのが「安全神話」という言葉だ。この言葉を使うテレビ番組や新聞記事もいくつかあったが、今回の事故にJR側の落ち度はないという声も根強い。こういった言葉を使うことが「安易なレッテル張り」だとの見方もある。
過去には車内の刺殺事件やホームでの死亡事故も...
過去に新幹線で起こった事件事故としては、1988年に東京駅に停車していた「こだま」車内で男性が刺殺されたケースや、93年に静岡県内を走行中の「のぞみ」車内で覚せい剤を常用していた男がサバイバルナイフで男性を刺殺し、取り押さえようとして静岡県警の警察官に重傷を負わせたケースが知られている。1995年には、三島駅に停車していた「こだま」に飛び乗ろうとした男子高校生がドアに挟まれたが、「こだま」はそのまま発車。引きずられた末にホームから転落し、車両にひかれて死亡している。この三島の事故が、1964年の開業以来、JR側に責任があるとされる唯一の旅客死亡事故だ。
こういった状況を「安全神話」と呼べるかをめぐり議論が起こっている。なお、広辞苑第6版では、「神話」の2番目の項目で「比喩的に、根拠もないのに、絶対的なものと信じられている事柄」と説明されている。
6月30日の事故直後に発行された産経新聞の夕刊(大阪本社発行)の記事には、
「開業から半世紀、安全神話を誇る東海道新幹線で」
という表現があった。夕刊では「新幹線火災 突然目前で火災 煙充満 新幹線内パニック」という見出しだったが、ウェブサイトの見出しには「安全神話に激震 『死ぬかと思った』車内パニック」と、「安全神話」の単語が登場した。
毎日新聞は翌7月1日朝刊3面の特集記事で、事件が「東日本大震災でも死者を出さなかった新幹線の『安全神話』を揺るがす形となった」とした。神奈川県版でも「安全神話を誇る新幹線内での事件」という表現があった。
7月1日朝刊時点では、朝日、読売、日経は「安全神話」の表現を避けている。
宮根氏は「新幹線という乗り物は非常に安全で安心であるけれども」とバランス取る
テレビでは、7月1日昼の「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日)が「女性が巻き添え 揺らぐ安全神話」と題して特集を組み、下平さやかアナウンサーが、
「それにしても今回衝撃だったのは、安全に運行しているというイメージの新幹線の車内で起きたということかも知れませんね」
などと話し、やはりテロ対策と利便性との兼ね合いについても多くの時間を割いた。
「安全神話」という言葉を使いながらバランスを取ろうとしていたのがミヤネ屋(読売テレビ)の宮根誠司氏で、鉄道アナリストの川島命三氏とのかけ合いで、
「新幹線の『安全神話』が...って、新幹線そのものに何か大きな欠陥があったわけではない。新幹線という乗り物は非常に安全で安心であるけれども、こういう身勝手なことをする人がいるということも考えないと、これからはいけない時代になっちゃったということですね?」
と呼びかけていた。