東京・銀座の老舗フランス料理店「マキシム・ド・パリ」とそのケーキショップが、2015年6月30日で閉店した。
日本人に本場フランスの味や重厚で優雅なイメージを伝えただけでなく、「苺のミルフィーユ」という名物メニューも生んだ。営業最終日となった30日、ケーキショップには閉店を惜しむファンが長蛇の列を作った。
再上陸の可能性は「白紙」
マキシム・ド・パリは東京オリンピックから2年後の1966年、フランス・パリの有名レストラン「マキシム」の支店として銀座にオープンした。立ち上げたのは当時のソニー社長・故盛田昭夫氏。「大人の社交場を創る」という名目で、日本では珍しかった本格フランス料理を提供する店として誕生する。東京メトロ銀座駅を降りてすぐ、ソニービル地下にひっそりたたずむレストランは、数多くの食通をうならせた。
70年代からは関東各地の百貨店などにケーキショップを展開、レストランの人気デザートだった「苺のミルフィーユ」(旧商品名「ナポレオン・パイ」)がすぐさま看板商品となった。バター香るパイ生地の下に、ほんのりオレンジリキュールを利かせた上品な味のカスタードクリーム、大粒の苺が彩りを添える。
80年代には漫画家・一条ゆかりさんの代表作「有閑倶楽部」でも紹介され、知名度は一気に高まった。最も小さなサイズでも1500円以上、大きなサイズだと5000円を超える高価な一品ながら、本物の味を求める人々に愛された。
そんなマキシム・ド・パリの閉店が公式サイト上で発表されたのは2015年4月1日。その後、ケーキショップ7店もすべて閉店が発表され、6月30日を最後にマキシムブランドは日本から「完全撤退」することとなった。2000年代にソニーから店舗運営を受け継いだスタイリングライフ・ホールディングスによると、今後思うようにマキシムブランドを成長させていくのが難しいと感じ、閉店を決断したという。
日本に再上陸する可能性はあるのか。担当者は「それはパリの(レストラン「マキシム」を運営する)マキシム社が決めることなので、分かりません」と語った。
開店前から大行列ができ、苺のミルフィーユは飛ぶように売れる
マキシム・ド・パリの最終営業日となった30日の昼下がり、東京・銀座へ向かった。各ケーキショップに「苺のミルフィーユ」を求めるファンが殺到していた。
レストラン併設のケーキショップで記者を待ち受けていたのは、すっからかんになったショーケースだ。すべての商品が完売し、何もない。
店員は「開店前から大行列ができ、『苺のミルフィーユ』は30分以上も前に売り切れてしまいました。今は入荷を待っている状況です」と驚いた様子を見せる。そうしている間にも次々客が訪れ、空のショーケースを目にして残念そうに帰っていく。名残惜しいのか、店舗の写真だけを撮って帰る客の姿も見られた。
次に、大丸東京店のケーキショップに向かった。ショーケースの中には商品がまだありそうだ。しかし、店舗の前には長蛇の列ができ、何人もの係員が整理に駆り出されている。店員に聞くと、こちらも開店前から行列が出来ていたようで、最初に入荷したケーキは完売してしまった。「今ケースに並んでいるのは第2便です」とのことだった。
列に並ぶファンは熱い思いを口にする。母親が持つ「有閑倶楽部」を読んで「苺のミルフィーユ」に強く惹かれたという女性は、「ホイップクリームが好きではない私でも気に入りました。卵の風味が強いカスタードクリームに感動しますよ。初めてパイ生地にナイフを入れた時のことは今でも覚えています。もう食べられないなんて本当に残念です」と話す。続けて「パイ生地のザクっとした食感を味わって欲しいので、是非今日中に食べて下さい」と記者にアドバイス、「今日は一番大きなサイズを買って、家族で食べます」と笑顔を浮かべ、列前に進んでいった。
「苺のミルフィーユ」はもう日本で食べられないのだろうか。スタイリングライフ・ホールディングスは「本当に今日が最後となります。今後どこかで販売することは考えていません」と明かしている。