東京電力福島第1原発の廃炉に向けた「中長期ロードマップ」(廃炉工程表)が改訂された。政府の廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議(議長・菅義偉官房長官)が2015年6月12日に決定した。
1~3号機の核燃料プールからの燃料取り出し開始時期は、これまでより最大3年遅れ、最も早い3号機でも2017年度中にずれこみ、原子炉格納容器内で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の回収は、2021年中に1~3号機のいずれかで開始するとしている。汚染水やがれきなどに阻まれ、廃炉作業は出だしからつまずいた格好だ。国と東電は全体で30~40年かかるとされる廃炉工程の大枠は変更しなかったが、改訂後の工程通りに進むか、懐疑的な見方が強い。
最難関が燃料デブリの回収
工程表は「事故収束」を宣言した2011年末に最初に策定され、大幅な改定は2013年6月以来、2年ぶり。
当面の優先順位が高い課題として、核燃料プールからの燃料回収と汚染水対策を挙げた。現在、1~3号機のプール内に計1573体の燃料が残っている。この回収開始時期は、これまで3号機が最も早くて「2015年度上期」だったのを、「2017年度」に延期。1号機(2017年度上期)、2号機(2017年度下期)も、ともに「2020年度」に変更した。
放射性物質を含む汚染水対策については、汚染水を処理した後のトリチウムを含む水について、2016年度上期から処理方法の検討を開始することを明記。原子炉建屋に流入する地下水の量を、2016年度中に現状の1日約300トンから100トン未満に減らす新目標を掲げ、凍土壁の建設などを急ぐ考えを示した。
そして、廃炉工程で最難関が燃料デブリの回収だ。格納容器内には1496体分の燃料が残り、その多くが格納容器下に溶け出している。これまで、損傷した格納容器を修理したうえで水を満たし、放射線を遮蔽(しゃへい)しながら回収する「冠水(水棺)方式」で行う方針だった。しかし、格納容器の損傷箇所の特定が困難で、それをふさいで水を満たすのは現実的でないと判断。水を使わず空気中での回収を目指す「気中工法」の可能性を検討することを含め、2018年度前半の工法確定を見込む。
これに伴い、従来計画で回収開始の目標時期を1、2号機は「2020年度上期」、3号機が「2021年度下期」としてきたが、2021年中に1~3号機のうち条件が整ったいずれかで取り出しを始めると、改めた。
労災事故も増える
今回の改定は、準備段階のがれき撤去に時間がかかって工程が遅延した上、汚染水漏れや放射性物質の飛散などのトラブルが相次ぎ、作業員の労災事故も頻発したことを受けてのもの。スピード重視の無理のある工程を優先した結果、現場に負担をかけ、逆に遅れを招いたとの反省がある。
だが、地下水流入の抑制一つとっても、試験している凍土壁がうまく機能し、くみ上げた地下水を処理して海に放出する計画が実現するかは不透明だ。膨大なタンク群にたまっていた汚染水の処理は東電が5月に「完了」と宣言したが、今の処理装置では除去しきれないトリチウム(三重水素)に汚染されたまま今後もタンクにたまっていく。
燃料デブリに至っては、格納容器がどこにあるかさえ未だはっきりしない。引き続き調査ロボットなどで情報を集めることになるが、新工程表の2018年度工法確定という日程は、「決して簡単ではない」(経済産業省関係者)。廃炉作業の技術開発は、国の認可法人「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が司令塔になるが、その技術系スタッフは35人程度しかいないなど、体制の心もとなさを心配する向きもある。
作業員の確保という課題も重くのしかかる。現在、1日平均で2年前の2倍を上回る7000人規模の作業員が働くが、その分、経験や技量の乏しい者が増えている。東電によると、2014年度に福島第1で労災事故に遭ったのは64人と、前年度から倍増し、作業経験半年未満が半数を占めたという。作業員の被曝線量は5年で100ミリシーベルト以下と定められているが、ベテランになるほど高くなる傾向があり、現場をまとめるリーダーや熟練作業員が足りなくなるおそれも指摘されている。