2015年5月以降、韓国で中東呼吸器症候群(MERS)の感染が広がっている。中東に滞在した男性が韓国内にMERSを持ち込み、6月26日現在で感染者は181人、死者は31人、隔離対象者も4000人以上にのぼる。
日本人も一時隔離されていたこともわかり、対岸の火事とはいえない状況だ。実際に日本へ上陸する可能性はあるのだろうか。
1人から平均0.8~1.3人に感染
MERSはせきや息切れ、発熱が主な症状で、重症者の致死率は約40%(韓国では現状約10%)とかなり高い。原因となるMERSウイルスが発見されてから3年しか経っておらず、人から人への感染は、咳やくしゃみによる飛沫感染や接触感染の可能性が高いようだが、詳しくは不明だ。
韓国では4次感染まで広がり、「感染力が強まっているのではないか」と懸念する声もある。だが、感染力の目安は「1人の感染者から何人に拡大するかだ」と、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長の岩田健太郎医師は指摘する。
「少し乱暴な計算ですが、韓国の人口約5000万人中感染者は180人ですから、罹患(りかん)率は10万分の1以下。日本で結核にかかる可能性のほうが高い数字です」
国立感染症研究所によるとMERSは1人の感染者から平均0.8~1.3人に感染するとされており、毎年流行するインフルエンザの2~3人、アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱の1.7~2人と比べると、確かに感染力は低い。韓国では最初の感染者の男性から約40人にうつったが、これは当初診断が確定せず、複数の病院に診察や入院を繰り返した言わば「例外」だ。
とはいえ日本と韓国は地理的に近く、観光客やビジネスマンが頻繁に行き来している。感染者が日本に入ってくるのも時間の問題ではないかと考えてしまうが、岩田医師はその可能性は低いという。
「MERSが中東で流行してからも、日本と中東の人の往来は特に制限されていませんが、中東からMERSは持ち込まれていません。韓国は隣国とはいえ、現状の感染力では日本で感染が拡大するのは考えにくいでしょう」