安全保障関連法案の審議をめぐる報道をめぐり、ジャーナリストの池上彰さんが朝日新聞コラムで「伝え方に首をかしげることも多いのが実情」と苦言を呈している。その一例として取り上げたのが、2015年6月22日の衆院平和安全法制特別委員会に参考人として呼ばれた元内閣法制局長官の阪田雅裕氏の発言だ。
阪田氏は、ホルムズ海峡での機雷掃海については従来の憲法解釈の枠内とは言えないと指摘する一方で、集団的自衛権の限定的な行使を容認することについては一定の理解を示している。各紙は発言を報じる中で、この2つの論点にも触れているが、濃淡の付け方には各社で大きな差がある。特に朝日新聞は、夕刊段階では発言の法案に批判的な部分しか報じなかった。池上氏は、こういった傾向が法案に対する「社の(法案への)態度の順番とほぼ一致」するのではないかと問題提起している。
朝日・毎日は発言を1面トップ記事で扱う
阪田氏の発言は、各紙が6月22日の夕刊でいっせいに取り上げ、その報道ぶりを池上さんが6月26日付朝日新聞朝刊のコラム「池上彰の新聞ななめ読み」で取り上げた。
主要紙のうち、1面トップで取り上げたのが朝日新聞と毎日新聞。毎日では
「日本への攻撃が差し迫った状況で集団的自衛権行使を可能にすることについて『従来の憲法解釈と論理的に全く整合しないものではない』と一定の理解を示した。ただ、中東での機雷掃海については『日本の存立が脅かされる事態に至るはずがなく、従来の憲法解釈の枠内にはない』とした」
と2つの論点についてそれぞれ異なる主張を伝える一方で、朝日は
「(集団的自衛権の)行使を容認した点を『憲法を順守すべき政府自ら憲法の縛りを緩くなるように解釈を変えるということだ』と問題視した。集団的自衛権の行使は『国民を危険にさらす結果しかもたらさない』と結論付けた」
と法案に批判的な部分だけを報じた。「一定の理解を示した」部分は、翌6月23日付朝刊で、阪田氏が法案を批判する内容に続く形で
「『従来の政府の解釈と集団的自衛権の行使を整合させようという政府の姿勢、考え方については一定の評価ができる』とも語った」
と紹介された。
読売・日経は3面で短く発言を報じる
読売・日経の夕刊1面トップは日韓関係に関するもので、阪田氏の発言はそれぞれ3面に掲載。両紙ともに2つの論点を短く伝えている。
「集団的自衛権の限定行使に一定の理解を見せたが、ホルムズ海峡での機雷掃海については『従来の政府解釈の基本的な論理の枠内とは言えない』と指摘した」(読売)
「集団的自衛権の『限定行使』に一定の理解を示しつつ、経済的危機のみで行使することは『従来の政府見解を明らかに逸脱している』と批判」(日経)
池上氏は、こういった各紙のトーンの違いについて
「阪田氏の発言は新聞によってニュアンスが異なり、朝日、毎日、日経、読売の順に、発言は厳しいものから緩やかなものへと変化します。同一人物の発言のトーンが、これほど違っているのです。この並びは、安全保障関連法案に対する社の態度の順番とほぼ一致しています」
と指摘し、
「社としての意見はあるにせよ、記事が、それに引きずられてはいけません。どのような発言があったのか、読者に正確に伝えることで、読者が自ら判断する材料を提供する。これが新聞の役割ではありませんか」
などとクギをさした。
新聞業界では何らかの切り口から事象を取材して記事を書くことを「角度をつける」と表現することがあるが、池上さんの今回の指摘は、「読者に正確に伝えること」の重要性をあらためて強調した形だ。
池上氏のコラムで論評の対象になったのは、各紙の東京本社が発行する夕刊の最終版だ。首都圏で夕刊を発行していない産経新聞は、阪田氏の発言を6月23日朝刊で
「中東・ホルムズ海峡での機雷掃海は枠外だとしつつ『限定的行使が従来の憲法解釈と論理的に全く整合していないものではない』と述べ、法案に一定の理解を示した」
と報じている。