異論が出る背景に、安倍政権が人事慣行を破ったことも関係?
実際、行政府が事実上立法府、司法の上にたち、行政府の内部では、政治家である総理、閣僚を手玉にとって「官僚内閣制」ができあがっている。なにしろ、法律のドラフト(下書き、原案作り)からその解釈まで、官僚が握っているので、政治家も官僚に対抗するのが並大抵でない。内閣法制局が、憲法解釈する「法の番人」であれば、各省官僚が日常行っている「有権解釈」も権威が出てくるので、好都合というわけだ。
歴代の内閣法制局長官から異論がでていることの背景も、知っておく必要がある。筆者は、安倍政権が、内閣法制局長官の人事慣行を破ったことも関係あると思っている。
内閣法制局は各省役人の寄せ集めだ。参事官クラスは各省庁からの出向者で、部長などの幹部になるのは、原則として法務、財務、総務、経産、農水の5省出身者に限られ、そのうち長官になるのは農水省を除く4省庁という不文律がある。
安倍政権では、外務省出身の小松一郎氏を長官に任命した。まさに異例だ。ただ、同氏は志半ばの昨(2014)年6月、ガンで亡くなった。
官僚社会の常として、人事に介入されると猛烈に反発する。まさしく、小泉氏がいうように「旧首相公邸より官僚の公邸のほうがいい」というわけだ。
内閣法制局は「法の番人」ではない。もし国民が、違憲と思うなら、選挙で政治家に審判を下すとともに、裁判で訴えればいい。違憲審査権は、憲法81条により(最終的に)最高裁にあるからだ。これこそ、立憲主義である。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。