トヨタ自動車初の女性役員、それも同社の「顔」である広報部門のトップであるジュリー・ハンプ容疑者が麻薬取締法違反の疑いで逮捕されて、まもなく1週間を迎える。警視庁が同社本社の家宅捜索を実施。一方、ハンプ容疑者は容疑を否認している。
豊田章男社長は「法を犯す意図がなかったことが明らかにされることを信じている」と会見で話したが、企業広報の専門家は、ハンプ容疑者に仮に違法性がなかったとしても、グローバル企業の広報トップとして問題あり、と指摘する。
容疑者は「ひざの痛みを和らげるため」と供述
逮捕されたのは2015年6月18日。アメリカから国際郵便で、麻薬成分のオキシコドンを含む錠剤57錠を自身の滞在する都内ホテル宛に輸入した疑いがある。警視庁によると、18日の段階では「麻薬を輸入したとは思っていません」と容疑を否認したという。
警視庁は23日、愛知県豊田市にあるトヨタ自動車本社と東京都文京区の東京本社など3か所を家宅捜査した。トヨタ自動車の広報は24日、J-CASTニュースの取材に、家宅捜索が行われたかどうかを含め「捜査にかかわる案件のためコメントできない」と話した。
また、23日の各紙報道などによると、ハンプ容疑者は「ひざの痛みを和らげるため輸入した」という趣旨の供述をしている。確かにオキシコドンは米国では鎮痛剤としても使われていて、毎日新聞は、来日前から服用していたという関係者の証言にも触れている。
日本では、オキシコドンは麻薬成分があるため医療機関で管理されている。海外から持ち込む際は事前の許可が必要で、空輸は禁じられ、自ら手荷物としてのみ認められている。
また厚生労働省の監視指導・麻薬対策課によると、日本ではがん治療の際に痛み止めとして使われていることがほとんどだ。自由診療であれば、それ以外の痛み止めとして使うこともできなくはないが、同課の担当者は聞いたことがないという。
「リスク意識の欠如」を指摘
ハンプ容疑者はトヨタ米国法人の副社長から4月1日付でトヨタ自動車として初の女性役員に抜擢されたばかりだ。米自動車大手ゼネラル・モーターズや飲料大手ペプシコなどの広報部門を務めた手腕を買われ、トヨタでも同社の「顔」としての活躍が期待されていた。
こうした背景からか、トヨタ自動車の豊田章男社長は6月19日の会見で「ハンプ氏は私にとってもトヨタにとってもかけがえのない大切な仲間。法を犯す意図がなかったことが明らかにされることを信じている」と述べた。かばっているとも取られかねない表現だ。
しかし、企業広報に詳しいコンサルタントの鶴野充茂さんは、ハンプ容疑者が「法を犯す意図がなかった」としても、
「トヨタ自動車というグローバル企業の広報トップとしてはアウト」
と指摘する。
アメリカでは鎮痛剤であると同時にドラッグとして乱用されていることは以前から問題になっている。本当に鎮痛剤として服用していて、日本に持ち込もうとしたのだとしても、
「広報という仕事をしていながら、事前に『違法性がないのか、手続きが必要なのか』を確認するべきだということに頭が回らなかったとすれば、考えられないリスク意識の欠如だ」
という。もし手続きが面倒だと考えていたならコンプライアンス違反にあたり、もちろんドラッグとしての輸入や自身の服用であれば、当然「アウト」だという。