韓国で猛威を振るっている中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスについて、北朝鮮が国産の注射薬「クムダン2」で「十分に治療することができる」と荒唐無稽な主張を展開している。
この「クムダン2」、古くから北朝鮮では「万能薬」だと宣伝され、それを信じて韓国に密輸入する人も多い。だが、韓国当局が押収して調べてみると、万能薬どころか違法薬物の可能性が高いシロモノだった。
朝鮮人参から製造もウソだった
国営朝鮮中央通信が2015年6月18日に配信した記事によると、保健省保健経営学研究所のチェ・チャンシク所長は、「クムダン2」の効能について
「重症急性呼吸器症候群(SARS)やエボラ出血熱、MERSのような悪性ウイルス感染症はすべて免疫と直接関係する疾病であるので、朝鮮で生産されている強い免疫復活剤であるクムダン2注射薬で十分に治療することができる」
と主張した。
朝鮮富強製薬会社のチョン・スンフン社長は、クムダン2を朝鮮人参から抽出した多糖体や希土類を加工して製造していると説明。これまでもクムダン2が流行性肝炎、悪性感冒、SARS、鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ、エイズといった多数の感染症の治療や予防に役立ったことが報じられていると主張し、MERSについても
「クムダン2注射薬を使用して上記の伝染病の感染地域へ行ってきた人々のうち、その疾病にかかった人が一人もいないという事実はMERS防疫へのクムダン2注射薬の寄与可能性を十分に示している」
と豪語。
「諸国の防疫専門家は予防の目的でクムダン2注射薬を使用すべき」
と主張した。
この「クムダン2」、少なくとも北朝鮮国内では「効果抜群」だと宣伝されている。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」が01年7月に平壌発で報じたところによると、「クムダン2」は「幅広い疾患に早くよく効く『万能薬』として大評判を呼んでいる」といい、
「急性・慢性肝炎、肝硬変による腹水、すい臓炎、大腸炎、ポリープ、神経痛、胃・十二指腸潰瘍、胃炎、虚弱症、不眠症、胃けいれん、臓器出血、悪性感冒、自律神経障害、アレルギー性皮膚炎、一部のガン疾患、歯痛、不整脈、てんかん、肋膜炎、発育不全による不妊症などの諸症状に大きな効果」
があったとうたわれている。
韓国SBSテレビが15年5月に伝えたところによると、「クムダン2」は韓国でも肺がんや心臓病の患者に「万能薬」として紹介され、密輸入が後を絶たない。だが、実際に「万能」かは疑問符がつく。押収した「クムダン2」を国立科学捜査研究所が鑑定した結果、その主成分は局所麻酔薬の一種「プロカイン」で、北朝鮮側が主張する朝鮮人参の成分は検出されなかった。プロカインはショック、中枢神経系異常などの副作用が起こる可能性が指摘されている。万能薬どころか、人体に害を与える違法薬物の可能性が高いことになる。
そもそもMERSに有効な治療法は確立されていない。日本国内の動きを見ても、菅義偉官房長官が2015年6月19日午後の定例会見で、
「MERSについては、適切な治療薬やワクチンが開発されておらず、今後治療薬やワクチンの様々な研究開発が進んでいくことを期待したい」
と述べたばかりだ。