日本の出遅れは明らか
ただ、両国の合意について、日本の通商筋は「政治的成果を優先して中身がついていっていない低水準のFTA」と指摘する。双方が保護したい産業を関税撤廃の対象から外すなどしているからで、民間シンクタンクによると、今年1月時点で中国に輸出される韓国製品にかかる関税率3.5%(加重平均)が、FTA発効3年で2.9%に下がるだけで、中国が育成に注力する自動車産業をはじめ、自動車用溶融亜鉛鋼板、さらにエチレングリコールなどの化学製品の関税は撤廃対象外。逆に中国からの輸出品目では豚肉や鶏肉など重要農作物の多くが対象外で、農水産物への関税撤廃比率が最低水準――といった具合だ。
このため、経済産業省などは「日本への影響は小さい」と見る。特に日本の中国への輸出額が大きい自動車や化学品が、中韓FTAの対象外となり、中国市場での韓国製品との戦いで不利になる懸念が消えたことが大きい。
こうしたことから、中国政府直系のニュースサイト「チャイナネット」日本語版(6月3日)も、中韓FTAへの日本の反応を扱った記事で、「輸出産業の構造が韓国と類似する日本は、プレッシャーを感じるはずなのだが、焦っているようには見えない」と論評。日本の通商政策がTPPや欧州連合(EU)とのFTAを優先していると分析した上で、EU側の対日交渉への不満を指摘するなど、側面から牽制するにとどまっている。
実際、日本は「(日中韓FTAとRCEP交渉で)早期に高いレベルで野心的な内容で合意することが大変大事だ」(宮沢洋一経産相の5月29日の会見)と、中韓FTAの内容にとらわれず、より質的に高水準の合意をめざす姿勢だ。
だが、東アジアに限らず、FTAにおける日本の出遅れは、紛れもない事実。日中韓FTAやRCEPの交渉も2015年中の妥結を目指してとされるが、進展は遅々としている。そもそも、日本は「まず日韓で貿易自由化に加え諸ルールも含む高水準の経済連携協定(EPA)を結び、この延長上で日中韓FTAを実現、さらにこれを土台にRCEPの交渉を加速させる戦略だった」(全国紙経済部デスク)。しかし、竹島や慰安婦問題などもあって日韓EPA交渉が中断し、中韓FTAに先を越されたのが実態だ。
中国は、TPPへの対抗上からもRCEP交渉で主導権を握ろうとしているとされ、今回の中韓FTAを土台として日中韓FTA及びRCEP交渉を進めようとしてくるはずだから、両交渉で自由化の水準を日本が望む方向へ高めることは、難しくなったといえそうだ。中韓FTAの日本への「実害」が小さそうだとしても、とてものんびりしていられる状況ではない。