出版流通大手「トーハン」が2015年6月16日に発表した週間ベストセラーランキングで、神戸連続児童殺傷事件を起こした「元少年A」による手記「絶歌」(太田出版)が総合1位となった。
11日の発売後から賛否を呼び、被害者遺族からは回収要請まで出ていた同書。売れ行き好調の報を受け、作家の乙武洋匡さんが16日、ツイッター上である疑問を投げかけた。
「批判を向けられるべきは、著者と出版社『だけ』でいいのか」
乙武さんは「絶歌」の販売を自粛する書店がある中、同書が週間売り上げ1位になったと伝えた記事に触れ、「あれだけの批判が渦巻いても、フタを開けてみれば1位」とコメントした。その上で、
「批判を向けられるべきは、著者と出版社『だけ』でいいのか」
と問題提起した。
出版を巡っては「少年犯罪の加害者の心理を理解する上で社会的意義がある」と理解を示す声もあるが、被害者遺族に事前連絡しないまま出版に踏み切ったこと、顔も名前も出さず「元少年A」として出版したことなどが問題視され、批判の声が高まっている。殺害された土師淳くん(当時11)の父親は12日付で太田出版に文書で抗議。速やかな回収を求めていた。
それでも「絶歌」は回収されぬまま、トーハンの週間ランキングで堂々の初登場1位となった。インターネット上では不買運動を呼びかける動きまで出ていたほどだが、結果的には、多くの人々が同書を買い求めていたことが明らかとなった。
乙武さんのツイートでは、「批判を向けられるべき」他の対象が具体的に示されていない。問題を取り上げるマスコミ、同書を平積みする書店、もしくはこの1冊に大騒ぎする日本全体の風潮を指しているのかもしれないが、ツイッター上ではランク1位に触れる文脈から「購入者」と受け取った人が多かったようだ。
「購入者批判」派VS「批判されるべきは出版社側」派
乙武さんの投稿を巡り、ツイッターではちょっとした議論が起きている。一方からは、
「出版社はもちろん買う人に『絶句』正気を疑う」
「買った人、自分の親族が切り裂かれてても買うんでしょうかね」
「興味本位でお金を出して買い手にとって読んでいる人達が山ほどいる。このことが何よりも醜く、恐ろしい」
などと購入者を問題視する声が上がっている。多くは被害者遺族の気持ちに配慮するという意味からも、著者や出版社が多額の利益を得られないようにする意味からも、興味本位で買うべきではないという意見のようだ。
しかしその一方では、
「これが『大衆』の怖さですね、だからこそ、出版社が批判されるべき」
「だけでいいに決まってるじゃん。世間の好奇は規制できないし批判できない」
「批判によって一般大衆の好奇心をどうやって封じ込めるのでしょう?出版社だけでいいでしょう」
といった声も少なくない。大衆が興味を抱くことは避けられない以上、購入者を同列に批判すべきではないとする主張だ。
なお、太田出版は17日、岡聡代表取締役社長の名前で「絶歌」についての見解を公式サイト上で発表。出版に至った経緯や同書の持つ意義などを説明した上で、出版を継続していく意向を示した。
だがネット上では、出版社の言い分に納得できない人も少なくないようで、
「キレイ事じゃなくて素直にビジネスです!と言ってくれた方が清々しい」
「社会的意義の為なら儲けは遺族に全部渡せよ」
といった厳しい声が目立つ。
また、「元少年A」について「事件が起きるまで彼はどこにでもいる普通の少年でした」と説明している点についても、疑問の声が上がっている。