トヨタの「種類株」は買える?買えない? 新たな株式に海外投資家の反応も分かれる

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   トヨタ自動車が導入を発表した、個人投資家向けの新たな株式が論議を呼んでいる。株式を購入する投資家にとっては、5年間は売買できず「塩漬け」を強いられる一方、「元本割れ」はなく、配当の水準もあらかじめ決まっている。

   言ってみればリスクの低い社債のような金融商品だ。個人投資家を増やしたいトヨタがひねり出したものだが、経営陣と株主との緊張感をそぐとの批判も出ている。

  • トヨタが発行を予定するのは新たな「種類株」(2013年5月撮影)
    トヨタが発行を予定するのは新たな「種類株」(2013年5月撮影)
  • トヨタが発行を予定するのは新たな「種類株」(2013年5月撮影)

7月にも1回目の発行を行う予定

   トヨタが発行を予定するのは新たな「種類株」(普通株とは違う権利や義務を株主に与える株)で、「AA型種類株式」と名付けられた。株式の名前は、米国車をまねて戦前に誕生したトヨタ初の量産車「AA型乗用車」からとったというから、結構自由に命名できるようだ。内容は複雑なので少し丁寧に説明しておこう。

   「AA型種類株式」は2015年6月16日の株主総会で承認を得たので、7月にも1回目の発行を行う予定だ。1回目は株数で5000万株、総額で約5000億円を上限とする。5回に分けて発行し、発行済み株式総数の5%未満(1億5000万株 )を上限とする。

   AA型種類株式はトヨタの普通株の市場価格より2割程度高い価格で売り出される。市場価格が2007年につけた当時の過去最高値(8350円)を上回る水準(6月12日終値で8394円)にある現状からすれば、買う側にすればやや割高感は否めない。しかも先述したように5年間は売却できない縛りがつく。ただ、5年たてば発行価格(買う側からすれば市場価格に2割上乗せされた取得価格)で買い取り請求できるので、株価下落のリスクを負わないで済むメリットはある。

   配当は初年度0.5%。もちろんメガバンクの定期預金(1年物で0.025%程度)よりは高いが、低いと言えば低い水準だ。株を100万円買ったとしても5000円にしかならないし、そこから税金がいくらか引かれることになる。ただ、配当は毎年0.5ポイントずつ上がり、5年目以降は2.5%が得られる。5年目以降まで待てば、現状のトヨタの普通株の配当利回りよりやや高くなりそうだという。株価の下落リスクが低く、配当が低いという面では新株予約権付社債(転換社債=CB)に似ているが、CBとの大きな違いはAA型種類株式に議決権が与えられている点だ。

   AA型種類株式は非上場だが、5年たてば「AA株1株=普通株1株」の割合で普通株に転換できる。普通株へ転換が多くなれば1株あたりの利益が希薄化するが、トヨタは自社株買いをすることで希薄化を防ぐとしている。

長期投資の資金に

   トヨタはAA株発行による調達資金を次世代技術の開発などに充てる。投資家に中長期的に保有してもらう代わりに、長い目で見た成長のための資金としたい考えだ。トヨタの個人株主は1割強と日本企業の平均(2割弱)よりやや低い。自動車メーカーは工場建設などの設備投資資金を回収するにはネット企業にはない長いサイクルを必要とする。海外資本の投資ファンドのような四半期の成果に「もの言う株主」の割合を減らし、長く保有してもらうトヨタファンの個人株主を増やしたい、との思惑も透ける。

   ところが、AA株に異論を唱える向きも海外に現れた。投資家に議決権行使を助言する米国の「インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)」は反対を表明。5年間売却せずに保有する安定株主が増えることで、経営陣への市場の規律(圧力)が働きにくくなる恐れがあるとしている。

   米公的年金2位のカリフォルニア州教職員退職年金基金(カルスターズ)も「海外の株主への配慮が不十分」として反対の意向を表明した。カルスターズのトヨタの発行済み株式の持ち株比率は、0.1%程度という。ただ、米国の議決権行使助言会社「グラスルイス」は「将来の事業機会の確保につながる」と賛成の意向を表明しており、海外の反応も一様ではない。

   トヨタにとっては株価が過去最高値水準にあるなか、「これでは買えない」と二の足を踏む個人投資家をいかに増やすかについて、知恵を絞った結果のAA株だ。リスクを嫌う日本の個人投資家に好まれそうな金融商品ではあり、結果が注目される。

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