韓国で中東呼吸症候群(MERS)の感染拡大が止まらない。2015年6月12日までで死者数は11人になり、感染者は計126人になった。
マスクを着ける人が街中にあふれるとともに、外出を控える動きが広がり、韓国経済に大きな打撃を与えている。政府は対応に追われているが、メディアは政権を批判する論調を強めている。
マスクの売り上げが前年比3600%増
もともと韓国では日本に比べてマスクをつける習慣はあまりないが、MERSの感染が広がるにつれ、外出時に着用する人が急増している。韓国メディアは連日マスク姿で街中を歩く人の写真を紙面に掲載するなど、MERSがもたらした象徴的な風景として取り上げているようだ。
聯合ニュースによると、マスクの売り上げは前年同期比で3601.5%と大幅な伸びを記録したという。
ネットには結婚式の出席者全員がマスク姿の記念写真が出回り、SNSで拡散された。後にジョーク写真と明らかになったが、大きな波紋を広げた。
こうした中で品質の高い日本製マスクが注目されている。素材メーカー「くればぁ」は韓国の商社などから注文が殺到し、15年5月20日から6月10日の期間、昨年の同じ時期に比べて売り上げは約10倍に伸びた。中河原毅専務によると、愛知県豊橋市にある同社まで、韓国から買いに来る客もいたという。
消費低迷で韓国経済に大打撃
MERSは韓国経済にも大きな打撃を与えている。感染拡大のおそれからか外出を控える人が増加し、消費が低迷している。中央日報(6月11日記事、以下いずれも日本語ウェブ版)は、「昨年のセウォル号事故直後よりも深刻」だと伝えた。
企画財政部のまとめでは6月1~7日のデパート売上は前年同期比で16.5%、大型スーパーでは3.4%減少。人が集まる施設の来場者数の落ち込みは大きく、いずれも前年同期比で映画館は54.9%、博物館は81.5%、遊園地は60.4%も下落したという。
外食も大きな影響を受けている。飲食店のカード使用額は5月の第1、2週の平均より12.3%も下がった。
韓国経済研究院の試算では、今の状況が8月末までの3か月続いた場合、国内総生産(GDP)の損失は、1年間の1.3%分に相当する20兆922億ウォン(約2兆2100億円)に上るとしている。
政府は景気低迷を懸念し、被害のあった地域や観光、宿泊業界が融資を受けられる4000億ウォン(約440億円)規模の基金をねん出。中小の医療機関には200億ウォン(約22億円)を支援し、患者には所得制限をかけずに約110万ウォン(約12万円)の緊急支援金を出す方針だ。
ただ、メディアは政府への批判を強めている。朝鮮日報は11日付社説で、初動に失敗したと朴槿恵(パク・クネ)大統領を批判。中央日報は11日付コラムでMERSの不安感が広がる原因を「恐怖の拡散は政府の力不足のためだ」と断じた。MERS感染と関係が疑われる病院の公表が遅れるなど、保健当局の情報公開が徹底できていないと批判している。また翌日の社説でも、なぜ朴大統領が記者会見を開かないのかと非難した。