国会審議で野党が反発を強めている安全保障関連法案に、自民党内部からも異論が出ている。異論を披露する方法も、安保法制に反対する集会に自民党議員が飛び入りして持論を述べるという特異なものだ。
一昔前の自民党であれば、党内で議論をぶつけ合った末に「落としどころ」を見つけた上で法案が提出されたため、今回のような「造反」に近い動きはあり得なかった。自民党の元「重鎮議員」も法案に反対する声明を発表する予定で、自民執行部への批判も表面化してきた。
「学者は、最高裁判決までおかしいとい言うやからだから、話を聞く必要はない」
集会は日本弁護士連合会(日弁連)が、2015年6月10日に国会内で「『安全保障法制』を問う」と題して主催。野党議員や弁護士を中心に約190人が参加し、法案の問題点を次々に指摘しながら廃案を目指す決意を新たにした。
そこに姿を見せたのが自民党の村上誠一郎衆院議員(元行政改革担当相)だ。村上氏は政府が14年7月に集団的自衛権の行使を容認する方向に憲法解釈を変更する閣議決定をした際も、反対を表明している。
村上氏によると、6月9日の総務会で安保法制については党議拘束を外すように執行部に求めた。そうすると、ある先輩の衆院議員が、与党が安保法案は合憲だという根拠にしている1959年の最高裁判決(砂川判決)を「読んだことがあるのか」と迫った。村上氏が「あなただけですよ、砂川判決が根拠だと言っているのは」と反論すると、その衆院議員は、
「学者は、最高裁判決までおかしいとい言うやからだから、話を聞く必要はない」
などと述べたという。
砂川判決では、憲法は自衛権を否定しておらず、自衛権行使を「国家固有の権能」だと認めている。さらに、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、違憲かどうかの法的判断を下すべきでない、としている。これから類推すれば、外国が絡む安保法案は合憲だといえなくもない。ただ、判決で言及されている「自衛権」が集団的自衛権まで含むかははっきりしないことなどいくつか疑問点が指摘されている。
6月4日に開かれた衆院憲法審査会では、与党が推薦した長谷部恭男・早大教授を含む3人の著名な憲法学者がそろって「法案は違憲」だと指摘した。この指摘を黙殺するかの発言に、村上氏は「あまりにも傲慢」だと憤った。
執行部が人事権握って「自分の考えていることが言いにくくなってしまった」
村上氏は、
「こういうことを、党内でひとりで言うことは結構しんどい」
とも嘆いた。小選挙区制への移行、党の公認をはじめとする人事権を執行部が握った結果として、
「なかなか昔のように、自分の考えていることが言いにくくなってしまった」
ことが孤立無援の背景にあるとも説明した。
自民党のOBからも異論が続々と噴出している。加藤紘一元幹事長は、「政敵」だったはずの共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版(5月18日付)に登場し、集団的自衛権の行使容認を「徴兵制まで行き着きかねない」などと批判した。
6月12日には、山崎拓元副総裁、亀井静香元政調会長、古賀誠元幹事長、藤井裕久元幹事長、武村正義元官房長官がそろって東京・内幸町の日本記者クラブで会見し、安保法制に反対する声明を発表する予定だ。