隣国韓国で中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスへの感染者が急増している。日韓の人的交流は大きいので、韓国の状況は対岸の火事というわけにはいかない。
日本政府は、WHO(世界保健機関)の状況見ながら対応を判断するとしている。MERSの流行状況について、WHOは現時点では、「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」を宣言するような事態には至っていないとしている。
ただし、そうであっても韓国の状況は気になる。
MERSそのものに分からないことが多すぎる
韓国政府が公表している感染者の推移をみると、まさしくネズミ算である。6月10日(2015年)段階の報道では、感染者が100人を超えたとするものばかりだった。もっとも、8日までのデータで感染者がネズミ算的に増えていることは確認でき、10日に100人をこえるのは容易に予測できる。
感染者がどのように増加するかについて、いろいろなモデルがある。普通なら、当初はネズミ算的に増加するが、そのうち拡大とは逆のフィードバックがかかるので、一定のところで終息する。MERSの場合でもそうあって欲しいが、MERSそのものに分からないことが多すぎる。
もし、ネズミ算的に感染者が増え続けていけば、あと2か月もすると韓国国民全員が感染という極端な計算結果になるが、そうはならないはずだ。しかし、ネズミ算的に増加した場合をあらかじめ計算して、実際の患者数がそれペースを上回るか、下回るかを見ながら、MERSの勢いを測るのは、実務的な対応だ。下振れしていれば、拡大とは逆のフィードバックが働き、沈静化の兆候と見なすことができるかもしれない。
「わずかながら沈静化の明かり」か
6月8日までのデータによって、ネズミ算的に拡大という前提で筆者が予測した感染者数は、9日92人、10日112人、11日136人だ。9日の筆者ツイッターでも指摘した。
実際の感染者数は、9日95人、10日108人、11日は122人と韓国当局が明らかにしている。この数字が正しければ、わずかながら沈静化の明かりが見えだしているかもしれない。
ただし、11日の程度の下振れは大いにあり得ることなので、楽観は禁物である。いずれにしても、ここ1、2週間がMERSを押し込めるかどうかの山場であろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。