「こいつが痴漢です」。痴漢にあったという女性が男性の顔を無断で撮影し、ツイッターに投稿した写真がネットで物議をかもしている。
女性が本当に痴漢被害を受けたかどうか、確定したわけではないのに、一個人の顔写真をネット上にさらし上げる「私的制裁」とも言える行為であり、「警察とか駅員に言えよ」「冤罪だったら・・・」などとやり過ぎだと指摘する声は多い。
モザイクなしで個人特定しうる顔写真
女性はすでにアカウントを削除しているため正確な日時などは分からないが、男性の顔写真を投稿したのは2015年6月ごろだとみられる。「痴漢された」「糞男」などと書き込み、横顔など複数枚の画像をツイッターに投稿した。写真にはモザイクはかけられていないため、個人を特定できうるものだ。
彼女の書き込みによると、電車の座席に横並びで座っている男性に「寝たふりしてお尻の下に手を入れ」られた。何度も触ってきたため怒鳴ったところ、男性は停車した駅で降りていったという。警察や駅員に連絡、相談をしたとは書かれていない。
撮影時にはシャッター音が出ないカメラアプリを使ったとし、「本当にありえないので写真さらすね」「こいつ拡散する」と書き込み、男性の顔写真が広まることを予想した上での投稿だったことが分かる。いわばネットでの「私的制裁」とも言える行為だ。また貼紙をばらまいて「家庭ぐちゃぐちゃにしてやりたい」と男性を脅すような文言もあった。
彼女の対応についてネットでは、たとえ痴漢被害者だとしてもやり過ぎではないか、と指摘する意見は少なくない。
「痴漢されたとかで他人の顔写真載せているのはツイッターじゃなくて駅員とか警察に言えよって思います」
「これはまずいだろ。もし冤罪だったら、相手に回復不能のダメージを与える」
とネットでは彼女の対応を疑問視する意見がある。
法的責任を問われかねない行為
これまでもネット上では同様に、痴漢の容疑者だとして顔写真を撮影し、投稿する例はあった。いずれもその行為に正当性があるのか、ネットでは物議をかもしてきた。
はたして法的に問題はあるのだろうか。アディーレ法律事務所の鈴木淳也弁護士は、プライバシー権の侵害で損害賠償の対象になったり、名誉毀損罪で刑事罰を負ったりする場合があると指摘する。
「顔写真を撮影したとしても、警察に提出する証拠保全が目的であれば、正当な行為として肖像権やプライバシー権の侵害として損害賠償義務を負うことはありません。しかし報復目的や面白半分でネットに投稿した場合は正当な行為と認められず、法的責任が問われる可能性があります」
という。
名誉毀損罪は「公共の利害に関する」ことで「もっぱら公益をはかる目的」があり、「真実であること、または真実と信じたことに相当な理由があることの証明があった」場合は処罰されない。しかし、わざわざツイッターに投稿したことが「もっぱら公益をはかる目的」があるとみなされるか、疑問の余地がありそうだ。
一方、彼女の行為を非難し、本名や勤務先、住所などの個人情報をネット掲示板に書き込む者もいる。鈴木弁護士は、ネット上で公開していない個人情報まで書き込んだ場合はプライバシー権の侵害にあたると指摘している。