品薄が問題となっているバターをめぐり、農林水産省は2015年10月末までに1万トンを追加輸入すると発表した。1回の輸入としては過去最大規模となる。
バター不足の背景として、マスコミは酪農家の減少など構造的な要因を挙げるが、日本国内でバターは政府が輸入を管理する「国家貿易」であることを指摘する報道は少ない。
高関税をかけ、国内の酪農家を保護
バターは脱脂粉乳と合わせ、水を加えるとほぼ牛乳と同じ成分に戻り、加工乳として利用できる。このため政府はバターと脱脂粉乳に高関税をかけ、国内の酪農家を保護している。この現実を知らなければ、バター不足の本質は理解できないだろう。
スーパーマーケットやデパ地下などで、輸入チーズはたくさん見かけるが、輸入バターは目にしたことがないだろう。それは同じ乳製品でもチーズは牛乳に戻せないため、バターや脱脂粉乳に比べると関税が低くなっているからだ。もちろんチーズにも高関税がかかっているが、チーズは多くの民間業者が輸入しており、様々な商品がスーパーなどに並んでいる。
これに対して、海外のバターを店頭で見かけないのは、バターがコメや小麦などと並ぶ政府管理の国家貿易となっているからだ。国内で流通するバターと脱脂粉乳は、国内の酪農を保護するため、基本的には国内産で賄い、足りない分に限って政府が輸入し、乳業メーカーなどに売り渡す仕組みになっている。
言うまでもなく、牛乳からバターの成分となる油脂分を除いたのが脱脂粉乳だ。このため、バターと脱脂粉乳に水を加えると加工乳として利用できる。もしも海外から安価なバターと脱脂粉乳が無制限に輸入され、乳製品の原料となると、国内の酪農が打撃を受けることになる。政府が外国産バターの輸入に高関税をかけるのは、民間業者が事実上、バターを輸入できない仕組みを作り、国内の酪農家を守るためだ。外国産米に高関税をかけて輸入を阻止し、国内のコメ農家を守っているのと同じ構図だ。