2020年の東京五輪へ向けた訪日外国人への「おもてなし」策が、思わぬ方面から指摘を受けている。東京都が組織する「観光ボランティア」の業務内容が民業を圧迫している上、あまりにも「ブラック」だというのだ。
求める能力が高すぎる、誰が無償でやるのか、と批判が止まない。一方の東京都は「誤解している」と反論する。
朝8時半、夜9時までもある勤務
2002年に始まった東京都の観光ボランティア制度は、現在3種類の業務からなる。1つ目は派遣依頼を受けて国際会議やフォーラムなどで会場案内、通訳補助をする「派遣ボランティア業務」、2つ目は東京を訪れる外国人旅行者に観光ルートを案内する「外国人旅行者向け観光ガイドサービス」、3つ目は東京都庁を案内する「都庁案内・展望室ガイドサービス」だ。外国語を使う機会も多くなるため、応募基準は英検2級以上と定められている。
15年6月19日からは新宿、上野などを歩く外国人旅行者に外国語で観光案内する「街なか観光案内」が新たに加わる。都は5月29日、以上4つに携わる観光ボランティアを「おもてなし東京」というチーム名で組織し、新たに制服も作ったと発表した。
今回問題視されているのは「派遣ボランティア」だ。都の観光公式サイト「GO TOKYO」によると、国や地方公共団体の依頼を受けた観光ボランティアは平日、土曜及び週休日の朝8時半からよる9時まで国際会議やフォーラムへ派遣される。報酬は出ないが、昼食をはさむ場合は1000円、加えて交通費が派遣先から支給される。一見すると高い能力が求められ、拘束時間も長いように感じる。また、通訳という専門能力を無償で提供する、というニュアンスにも読める。
ツイッターには、
「これこそ、ブラック」
「民業の圧迫だ」
「正当な報酬を支払う意思がない?」
などの批判が寄せられている。
東京都「通訳業ではなく、外国人の方々と多言語で会話する程度」
一方、東京都産業労働局観光部はJ-CASTニュースの取材に対し、「誤解されている」とした上で、「『民業圧迫』という声は今まで全く受けていない」「夜間に業務があるわけではない」と反論する。観光ボランティアは国や地方公共団体の依頼で初めて派遣され、常に業務についている状態ではないという。「平日、土曜及び週休日のあさ8時半からよる9時まで」はあくまで活動可能な時間帯を示しているに過ぎず、「1日2時間という場合もある」とした。
訪日外国人の観光ガイドや通訳、翻訳を仕事にする通訳案内士は国家資格を持ち、彼らを専門に派遣する民間企業もある。無償のボランティアガイドは適法だが、企業からの抗議は無いのかという質問には「全くない」と断言する。
担当者によると、ボランティアの業務は「業としての通訳ではなく、外国人の方々と多言語で会話する程度」だという。「通訳案内士に報酬を与えて派遣する手もあったのでは?」との質問には、「ボランティアとして活躍頂ける場を提供したいという思いだ」と語った。
そもそも、東京五輪へ向けての通訳ボランティア育成は舛添要一・東京都知事の掲げる構想の1つだった。舛添知事は14年2月12日、読売新聞の単独インタビューに応じ、「東京五輪・パラリンピックに向けて多数の通訳ボランティアを養成する」と明言している。
ちなみに、都の観光ボランティアをめぐっては制服デザインもまた、物議を醸している。「おもてなし東京」チームで活動する場合、青いベストをプリントしたポロシャツに日の丸があしらわれたハットを着用するが、これがネット上で「ダサい」と不評を買っているのだ。デザインを手がけた藤江珠希さんは15年6月4日、ファッション情報サイト「Fashionsnap.com」の取材に「権利上の問題などで変更になった点もありますが、私なりにベストを尽くしてデザインさせて頂きました」と答えている。