「さすが」と大向こうから声がかかるような田中将大のカムバック投球だった。
むろんヤンキースも一安心。ところが、まだ不安視する向きもある。
本来の明るさを取り戻す
注目の復帰登板は2015年6月3日のマリナーズ戦。敵地シアトルでの先発だった。結果は7イニングを投げ、安打3、奪三振9、失点1。4月18日以来の3勝目に結び付けた。
「すべての球種が良かった。自分で整理して投げることができた」
田中自ら満点の評価を付けたコメントである。攻めるピッチングだったことも強調した。
「打者に的を絞らせなかった。しっかり勝負できた」
やはりホッとしたのだろう。試合後のインタビューでこんな場面もあった。
「プロらしい投球でしたね」
この質問に答えた。
「今までアマチュアですいません」
長短打を許して1点を失った3回を除き、あとの6イニングは走者を出さなかった。手玉に取ったといえる。見逃しの三振が7というのは、いかにコントロールが素晴らしかった証である。最速96マイル(154km)の速球を投げ、しかも許可球数85球を78球で終えた。
右手首炎症などで4月28日に故障者リストに入ったときは、さすがに暗い表情だったが、復帰戦後は本来の明るさを取り戻していた。
VIP扱いでカムバック
田中はヤンキースと「7年、161億円」と契約している。超大物の数字とあって球団の心遣いも半端ではなかった。
「ヤンキースの財産ですからね。ファンの支持も高い。黒田博樹が広島に復帰して抜けただけに、田中にかけられる期待は大変大きい。球団も田中なくして優勝はない、と考えている。まさのVIP扱いでカムバックを支援していました」
地元ニューヨークの日本人記者はそう語っている。
しかし、振り返ると、田中はこの2年、綱渡り状態で投げているのだ。昨年夏にも右ヒジ痛で2か月ほど戦列を離れた。そして今シーズンだ。
だから「さすが」と復帰登板に喜ぶ声がある半面、投げられたことで「ひとまず安心」との声、さらに「このまま大丈夫なのか」と再発を危ぶむ見方もある。
何人もの日本人投手が大リーグで投げては手術する例があるからで、当然の不安視なのだ。レンジャースのダルビッシュ有が今年手術、長期離脱の最中にある。
田中はこれからも右腕と相談しながら登板することになる。
「マウンドに立ち続けたい。それが自分の仕事だから。(復帰戦の投球を)次につなげたい」
ジラルディ監督はそんな田中にさらに期待を寄せている。
「6イニング投げられば、と思っていた。それが7イニングだ。期待以上の内容だった。スピードもあったし、これからが楽しみ」
グッドニュースに摩天楼の街は沸いた。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)