医師が出した処方箋をもって同じ敷地・建物にない薬局で薬剤師が調剤するという「医薬分業」規制をめぐり論争が巻き起こっている。政府の規制改革会議で規制緩和論が噴出し、厚生労働省などは反対している。
同会議は患者の利便性を高めるとして、2015年6月にまとめる答申に規制緩和を盛り込む構えだが、果たしてどう決着するか。
「患者の利便性」が論点に
医薬分業は「医の安全」を理由に1956年に導入された。医師の役目は薬の種類や量の決定(処方)まで、その先の処方薬の点検や調剤は薬剤師と、役割を分担。薬の専門家である薬剤師の目で、医師が処方した薬が患者にとって安全で有効かを点検するということだ。 その後、医師が公定価格でしか投与できない薬を安く仕入れ過剰な差益を得るという「薬価差益」が問題化したのを受け、政府は薬剤費削減の観点から分業に力を入れるようになった経緯がある。「薬局が病院内にあれば独立性は保てない」というのが厚労省の基本的な考え方だ。
といっても、分業は日本医師会の反対で「義務化」まではされているわけではない。政府は病院に薬局が併設された「院内処方」より、独立型の「院外処方」の方が薬剤師にとってもうかる価格設定にし、薬局を外へ誘導。病院も、薬を病院外の薬局で処方する「院外処方」の場合に受け取る処方箋料が引き上げられたほか、薬剤師の人件費や事務費を軽減できることもあって、分業が進んだ。2013年度の分業率は67%まで上昇しており、この間、薬価差益の高い薬を処方する医師は減り、1993年度に19.6%だった薬価差率(推計)は8.2%に下がっている。
ただ、院外処方の優遇は患者の経済的な負担に跳ね返る。規制改革会議によると、7日分の内服薬を処方された場合、薬剤費は院内処方なら720円(うち患者負担1~3割)なのに対し、院外処方だと1850円(同)に跳ね上がる。 規制改革会議が医薬分業の見直しに動く第1の理由もこの点で、同会議の岡素之議長(住友商事相談役)は「院外処方の患者が価格差ほどのサービスを受けているか議論が必要」と語る。
もう一つ、規制緩和の論拠とされるのが患者の利便性だ。3月12日に規制改革会議が開いた討論会では「車いすの患者が病院から道路を渡って薬局まで行けるのか」といった声が出た。内閣府規制改革推進室のインターネット調査によると、1036人の回答者の約6割が、規制をやめた場合の利点として「受診した医療機関で薬がもらえて便利」と答えたという。
これに対して日本薬剤師会などは「一体的な構造になると(薬局は)機能的に特定の医療機関のものになる」との懸念を示して反論する。
このほか、院外処方ではジェネリック医薬品(後発薬)が薦められることが多いため、医薬分業が医療費抑制に貢献しているとの声もある。