経済産業省がヘルスケア関連産業の拡大に向けた「アクションプラン2015」をまとめた。2015年6月にも改定する政府の「成長戦略」に反映させる。国民の健康を増進し、医療や介護の費用を抑制、新産業も創出するという「一石三鳥」の戦略だ。
具体的には「健康経営」の推進を大きな柱として打ち出したほか、ヘルスツーリズムなど「地方創生」も重要な施策と位置付けている。
認定マーク発行で人材確保サポート
アクションプランは5月18日開催された経産省の有識者会議「次世代ヘルスケア産業協議会(座長・永井良三自治医科大学長)」で了承を得た。(1)医療分野、(2)介護分野、(3)地方創生の3つに分け、現状分析と今後取り組むべきテーマなどをまとめている。
最大の目玉である「健康経営」は、従業員の生産性向上と中小企業の人材確保、医療費適正化の同時実現を目指すという位置づけ。
実は経産省は今年3月、東京証券取引所と手を組んで「健康経営銘柄」として初めて22社を選定している。次世代ヘルスケア産業協議会の健康投資ワーキンググループの議論を一部先取りしたもの。企業が従業員の健康維持、増進に取り組むことは、従業員の活力や生産性の向上など組織の活性化をもたらし業績向上につながるとして、企業が積極的な健康経営に取り組むように促すため、対外的な評価を与えるべきだ――という考えに基づいている。
具体的には2014年夏から東証と共同で上場企業に「従業員の健康に関する取り組みについての調査」を実施。回答企業に対し、健康経営を経営方針に示しているか確認するとともに、実施している取り組みを分析・評価し、33業種ごとに数社を選定。さらに財務指標によるスクリーニングによって1業種1社(該当企業がない場合は非選定)、計22社を選んだ(選定企業名は末尾に掲載)。
今回の「アクションプラン」ではこれを中小企業にも広げ、「健康分野での優良企業の認定制度」を創設する方針を明記した。「安全衛生優良企業」の認定基準などを参考に、経産省と厚生労働省で認定基準を策定する。具体的な基準として、従業員の健康増進のために中長期的な計画を策定しているか、ウオーキングイベントなど従業員が取り組みやすい対策があるかなどを検討。優良企業に認定されれば、政策金融上の優遇措置(政策金融公庫を通じた低利融資)や、認定マーク発行による人材確保のサポートなどが検討対象になる見込み。
2020年に10兆円産業へ
地方創生は、予防・健康管理といったヘルスケア産業と、食・農、観光など地域資源の融合により、(1)新たな農業のブランド化、(2)観光などの新たな需要獲得――を目指すもの。
(1)では、「健康に良い農産品」のデータベース構築を打ち出した。(2)では「ヘルスツーリズム」創出を目指すとしており、そのための「第3者認証」の仕組みを作ると明記している。ヘルスツーリズムは、例えば、健康チェック(血液検査など)と食事指導と関東(温泉滞在や森林浴など)を組み合わせるような場合、科学的根拠に基づく効果の有無やサービスの品質を評価する仕組みを、政府が観光業界などと連携して策定するといったことが検討される見込み。
このほか、介護分野では介護保険の適用範囲内と自費負担によるサービスの組み合わせで多様なサービスの提供が可能なことを事業者や自治体に周知し、利用者の利便性向上と事業者の収益拡大につなげる方針を示している。
政府は成長戦略で、ヘルスケア関連産業の市場規模(2011年度4兆円)を2020年に10兆円に伸ばす目標を掲げており、アクションプランで企業や自治体の動きに弾みがつきそうだ。
<健康経営銘柄=業種コード順>
アサヒグループホールディングス(食料品)▽東レ(繊維製品)▽花王(化学)▽ロート製薬(医薬品)▽東燃ゼネラル石油(石油・石炭製品)▽ブリヂストン(ゴム製品)▽TOTO(ガラス・土石製品)▽神戸製鋼所(鉄鋼)▽コニカミノルタ(電気機器)▽川崎重工業(輸送用機器)▽テルモ(精密機器)▽アシックス(その他製品)▽広島ガス(電気・ガス業)▽東京急行電鉄(陸運業)▽日本航空(空運業)▽SCSK(情報・通信業)▽丸紅(卸売業)▽ローソン(小売業)▽三菱UFJフィナンシャル・グループ(銀行業)▽大和証券グループ本社(証券・商品先物取引業)▽第一生命保険(保険業)▽リンクアンドモチベーション(サービス業)