アジア開発銀行(ADB)が、中国が主導して年内の設立を目指すアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対抗し、国際機関としての存在感アピールに必死だ。アゼルバイジャンで2015年5月上旬に開かれたADB年次総会では、中尾武彦総裁が「近い将来、加盟国に増資の支持を求める」と語り、増資や基金活用などにより融資機能を強化するなどの考えを表明した。
ただ、増資一つとっても、長年の懸案で、容易に実現するとは考えられず、インフラ投資で中国に対抗する道のりは険しいままだ。
日本の国益に関わる問題
ADBは67カ国・地域が加盟し、アジアの開発金融で主導的な役割を果たしてきた。中尾総裁が日本の財務官経験者であるように、歴代の総裁ポストは日本が握ってきた。財務省のホームページでは「ADBの設立は、日本にとって大規模な国際貢献の第1号」とアピールしており、ADBの存在感維持は日本の国益に関わる問題とされる。
特に、AIIBの創設メンバーに、日本の予想を裏切って英国やドイツなど欧州の主要国も名を連ねるなど、57カ国に膨らみ、参加を見送った日米の孤立や、日本の戦略の失敗を指摘する声も出ている。そこで、日米が主導するADBの巻き返しへの関心も高まっていた。
こうした中で開かれたADBの5月総会は、既存の基金を活用して融資枠を最大で1.5倍の約200億ドル(2.4兆円)に拡大するほか、日本のメガバンク3行などと連携してアジア諸国に投資案件で助言する仕組みを作るなど、機能強化策を矢継ぎ早に打ち出した。それでも関係者の間では「アジアの旺盛なインフラ需要に対応し切れておらず、付け焼き刃的な対応」と冷めた見方も多かった。
そこで中尾総裁が総会の場で打ち出したのが現在約1500億ドル(18兆円)ある資本金の拡充だ。増資によって融資能力を大幅に引き上げるほか、新興国の出資比率を高め、アジア各国の支持を取り付ける狙いがある。現在の出資比率は日本と米国が各15%超なのに対し、中国、インドは各6%台にとどまり、「先進国優先の運営をしている」との不満が新興国の間で渦巻いていることへの配慮だ。
問われる外交力
実は日本政府内では昨年も、ADBの増資案が浮上していた。ADBの機能強化をアピールすることで、AIIB設立に向けた動きをけん制する思惑からだ。それでも本格的に検討されなかった背景には、AIIB加盟国がここまで拡大しないだろうという「読み違い」に加え、同盟国である米国の事情がある。
経済危機国などを支援する国際通貨基金(IMF)の改革を巡り、世界各国は2010年にIMFの増資で合意。新興国の発言権を高める内容だったが、事実上の拒否権を持つ米国の議会が、中国への警戒心から認めず、増資は現在も宙に浮いたまま。同様にADBの増資も、米議会の承認が得られる見通しはなく、昨年段階ではADBの増資案はいったんお蔵入りになった。
ADBが増資する場合、日本、米国の出資比率を引き下げる一方、中国やインドなど新興国の比率を引き上げる方向で検討することになる。出資比率は各国の発言権に直結するため、調整の難航は必至で、ここでも米議会が大きな壁になる。そうした事情を承知の上で中尾総裁が1年遅れで増資に言及したのは、改革姿勢だけでも示さなければ、ADBのアジア域内での求心力が一段と低下してしまうと危機感からとみられる。
もちろん、AIIBにも弱みはある。透明性や環境への配慮など、日米が「不透明」と批判する融資基準のあり方をどうするかは、AIIB設立過程で議論になるのは必至。このほかにも、開発金融のプロの人材をどれだけ集められるかなど実務的な課題も山積している。こうした点を見極めながら、日米、ADBがどう巻き返していくか、外交力が問われることになる。