問われる外交力
実は日本政府内では昨年も、ADBの増資案が浮上していた。ADBの機能強化をアピールすることで、AIIB設立に向けた動きをけん制する思惑からだ。それでも本格的に検討されなかった背景には、AIIB加盟国がここまで拡大しないだろうという「読み違い」に加え、同盟国である米国の事情がある。
経済危機国などを支援する国際通貨基金(IMF)の改革を巡り、世界各国は2010年にIMFの増資で合意。新興国の発言権を高める内容だったが、事実上の拒否権を持つ米国の議会が、中国への警戒心から認めず、増資は現在も宙に浮いたまま。同様にADBの増資も、米議会の承認が得られる見通しはなく、昨年段階ではADBの増資案はいったんお蔵入りになった。
ADBが増資する場合、日本、米国の出資比率を引き下げる一方、中国やインドなど新興国の比率を引き上げる方向で検討することになる。出資比率は各国の発言権に直結するため、調整の難航は必至で、ここでも米議会が大きな壁になる。そうした事情を承知の上で中尾総裁が1年遅れで増資に言及したのは、改革姿勢だけでも示さなければ、ADBのアジア域内での求心力が一段と低下してしまうと危機感からとみられる。
もちろん、AIIBにも弱みはある。透明性や環境への配慮など、日米が「不透明」と批判する融資基準のあり方をどうするかは、AIIB設立過程で議論になるのは必至。このほかにも、開発金融のプロの人材をどれだけ集められるかなど実務的な課題も山積している。こうした点を見極めながら、日米、ADBがどう巻き返していくか、外交力が問われることになる。