本質論を議論すべきだ
そうした介入のケースではなく、侵略されたケースでみれば、アメリカとすでに同盟条約を結んでいた国が第三国から侵略された例は、南ベトナムしかない。しかも、侵略したのは北ベトナムであり、これが第三国とはいいがたい。集団的自衛権は抑止力があるので、自ら仕掛けていかないのであれば、戦争に巻き込まれる可能性が低いのが、国際常識だ。
こうした実例は身近にもある。中国が南シナ海で進出しており、南沙諸島のファイアリー・クロス礁が問題になっている。ここは、1988年に中国がベトナムから武力奪取した。今や3000メートル級の滑走路や水深の深い港を建設中であり、既に南沙諸島で最大級の面積となっている。
また、南沙諸島のミスチーフ礁は1995年から中国が占拠しているが、これは、1992年からアメリカ軍がフィリピンから撤退していたのを見計らって奪取し、建築物を構築して実効支配に及んだものだ。
いずれも、アメリカとの安全保障がない、または事実上機能していない状況から、中国の進出を許している。国際社会はパワーのぶつかり合いであり、どこかが引くと必ず争いが生じるが、その典型である。
こうして、歴史や近隣の事例をみれば、集団的自衛権は、防衛コストが低く、戦争に巻き込まれる可能性が低く、さらに戦争を仕掛けにくい体制だ。国会では、こうした集団的自衛権の本質論を議論すべきだ。
自衛隊のリスクは、集団的自衛権の行使の場合における不測の事態の確率×不測の事態の場合における自衛隊のリスクになるはずだ。集団的自衛権の行使がが不測の事態の可能性を低くする限り、自衛隊のリスクは減少するはずだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。