企業の好決算が相次いでいる。東京証券取引所第1部に上場する企業の2015年3月期決算がほぼ出そろい、純利益の合計が初めて20兆円を超えた。
牽引役となったのは円安や原油安を背景に業績を伸ばした製造業。業績回復に伴う税収増を期待する政府内からも好決算を歓迎する声が広がっている。
円安、原油安、訪日外国人増
企業の「成績表」ともいわれる決算は期末日から45日以内に発表する東証の開示基準(45日ルール)があり、3月期決算企業の場合は5月15日がその期限。SMBC日興証券が15日時点で発表済の1253社の決算を集計したところ、純利益の合計は前期比6.6%増の20兆4060億円に達した。
製造業では、自動車などの輸送用機器の純利益が7. 8%増の4兆8720億円、電気機器の純利益が38.0%増の2兆4840億円とそれぞれ大幅な増益になった。
一番の追い風は日銀の金融緩和を背景に進んだ円安だ。2014年10月に追加緩和に踏み切ったこともあり、2015年3月期の平均レートは1ドル=約110円と前期より10円近く円安が進行。円安で海外での収益が膨らんだことが利益を押し上げる格好となった。
原油安も幅広い業種に恩恵をもたらした。原材料費などの調達コストが低下した化学や海運などで増益が目立った。ただ、備蓄している原油の価値が下がった石油元売りは巨額の損失を計上。市場からは「(2015年3月期は)為替と原油価格に振り回された1年だった」(株式アナリスト)との声が出ている。
人口減少で市場の縮小が避けられない内需型の産業は苦戦を強いられ、小売業の純利益は15.3%減と低迷した。消費増税で節約志向が広がったことも影響した。
その内需型産業の業績を下支えしたのが拡大する訪日外国人のマーケット。昨年1年間の訪日外国人は過去最高の1341万人で、消費額も初めて2兆円を突破。今年1~3月も過去最高のペースで増え続けており、鉄道や航空業界で増収増益が相次いだ。新幹線や航空機で移動する外国人が増えたことが背景にある。
相次ぐ好決算に政府内では早くも税収の上振れを期待する声が浮上。2014年度の税収は2015年3月期決算企業が納める法人税などで確定するが、経済官庁の幹部は「予算段階の見通し(51.7兆)を上回る水準に達するのは確実だ」と指摘する。
消費の回復がカギ
ただ、今後の見通しは楽観論一色ではない。世界的なリスクでは、中国景気の減速など新興国に不安があるほか、株高を支えてきたカネ余りも、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げの時期を探っており、欧州ではギリシャの債務問題がくすぶる。好業績の重要な支えだった原油安も、相場は底を打ったとの見方が強まっている。
国内に目を向けると、円安による輸入コスト増加で、日用品値上がりが続いているなど、特に個人消費に関して不安材料が多い。2015年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値では、前期比実質0.6%(年率換算2.4%)の成長を記録したが、GDPの約6割を占める個人消費は前期比0.4%増にとどまり、1~3月期の個人消費の絶対額は約308兆円と、消費増税(2014年4月)前駆け込み需要が本格化する前の2013年10~12月期の315兆円より低い水準にとどまっている。
春闘は政府の必至の介入にもかかわらず、連合の第5回賃上げ集計(5月9日発表、定期昇給を含む)の賃上げ率は2.28%と、前年同期の2.11%に比べ、目立った加速感はない。中小企業や非正規雇用なども含んだ勤労者の給与を網羅する毎月勤労統計では、今年1~3月の所定内給与は前年同期比0.1%の伸びにとどまるなど、勤労者の収入の持ち直しはなお勢いを欠く。
SMBC日興証券のまとめでは、今期(2016年3月期)の最終利益予想も合計で22兆円を突破し、2年連続で過去最高を更新する見通し。ただし、企業の思惑通り進むかは、「消費が回復し、企業業績も上向く好循環が生まれるかがカギを握る」(エコノミスト)のは間違いなさそうだ。