スポーツ庁を創設するための改正文部科学省設置法が2015年5月13日に成立し、10月に文科省の外局として発足する。同庁設置は2011年に制定されたスポーツ基本法の付則で検討課題とされていたもので、同法が謳う「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利」との理念の実現に一歩を踏む出すことになる。
ただ、少なくとも当面は2020年東京五輪・パラリンピックに向けた選手強化への期待が強く、五輪後を見据えたスポーツ振興策をどう具体化していくかが問われる。
縦割り行政を一元化
同庁設置の一番わかりやすい目的は、これまで縦割りだったスポーツ行政の効率化だ。文科省が学校体育を指導するほか、スタジアムや体育館など運動施設の整備は国土交通省、リハビリとしてのスポーツといった障害者の健康増進は厚生労働省、スポーツを通じた国際交流は外務省が管轄し、経産省もプロスポーツ振興を通じた経済活性化を図るといった具合だ。こうした複数の省庁ばらばらの施策を総合的に調整し、推進するのがスポーツ庁だ。
組織は、文科省のスポーツ・青少年局を母体に、内閣府、外務省、国交省、厚労省、経産省、環境省、農林水産省の7府省の職員23人を再配置し、総員121人。2020年までの「オリンピック・パラリンピック課」のほか、選手強化を支援する「競技力向上課」、スポーツを通じた国際貢献を推進する「スポーツ国際課」、障害者スポーツを含めた普及を図る「スポーツ健康推進課」、全体の戦略をまとめる「政策課」の5課体制になる。
ただし、既得権益を守りたい各省の抵抗もあって権限と財源の一元化はできなかった。具体的には、例えば、国交省が競技場など施設を建設する際、スポーツ庁が事前に調整し、予算の効率的な投下を図るといったイメージだが、縦割り行政を本当に解消できるかは懸念も残る。
浮かんでは消えることを繰り返してきたスポーツ庁構想が急速に動いたのは東京五輪招致が決まったからにほかならない。2013年9月に五輪招致が決定すると、国は東京大会での金メダル数「世界3位」という目標を掲げた。これは過去最高だった16個(1964年東京、2004年アテネ)の2倍にもなる30個前後という極めて高い目標で、この実現のためには、カネも出すが口も出す、というのがスポーツ庁ということだ。
実際、2015年度の五輪関連の強化費は63億円と前年度から22億円増えたが、その一方で2015年度からは強化費の具体的な配分に文科省の意向が強く反映することになった。これまでは国(文科省)からの公的資金は日本オリンピック委員会(JOC)を通じて各競技団体に交付されてきたが、継続的な強化費については従来通りJOCが配分するものの、東京五輪に向けた強化費は、国(同庁)の作業部会(スポーツ関連団体代表で構成)が審査して配分を決める。
競技団体は、東京五輪に向けたどの大会でいくつのメダルと取るといった目標を設定し、その達成度などに応じて強化費を配分されることになるという。これにより、各競技団体に薄く広く配分する傾向が強かったJOCより、メダル有望競技へ重点的に投じるなど、メリハリの利いた配分が期待される。
JOCは配分権を握り続けようとしたが、フェンシングや柔道など競技団体の補助金をめぐる不祥事が相次いだこともあり、文科省に押し込まれた形だ。ただ、政治力も動員した必死の巻き返しで、継続的な強化費の配分権は死守し、スポーツ庁が直接配分する分との併用で決着した。