前回に続き、規制改革会議の委員、大阪大学大学院・森下竜一教授に機能性表示食品制度について聞く。今回は、主に消費者に関係する内容となった。
機能性のエビデンスなど、企業からの消費者庁への届出情報は、ウェブサイトで公開される。消費者はそれをどう活用し、自分が本当に必要な食品の選択につなげられるだろうか。
企業が「ウソ」つけば重いペナルティー
――新制度で、企業が機能性や安全性を消費者庁に届け出るよう義務化されました。消費者にはどんなメリットがありますか。
森下 これまでは消費者が健康食品について調べたいと思ったら、インターネット上の情報を参考にするしかありませんでした。しかし、なかには正しくない内容も混じっています。機能性表示の届出に際しては、すべてに受理番号が付与されます。消費者庁のウェブサイトでは番号に基づいて、メーカーが提出したエビデンスをはじめあらゆる情報にアクセスできます。仮に企業が「ウソ」をついていると分かれば、商品の販売中止や会社名公表と重いペナルティーが科せられます。
従来は信用できる公開情報そのものがなかったので、消費者が情報リテラシーを高めようにも難しい状況でした。今は、「やる気」さえあればリテラシー向上が可能な環境が整ったと言えるでしょう。知識が深まれば、サプリメントを自分で使ってセルフケア、セルフメディケーションを進めやすくもなります。
――ただ、ウェブに掲載されている論文の内容を読みこなすのは難しそうです。
森下 確かに一定の勉強は必要でしょう。とは言え消費者庁は企業側に、機能性に関して一般の人向けに1000文字程度の「抄録」の作成を求めているので、少なくともその内容を読めば理解できるはずです。
消費者も「長生きしたい」「健康を維持したい」と考えるのであれば自発的に勉強し、リテラシーを高めてほしいと思います。例えば同じ「やせる」でも、脂肪燃焼させるのか、糖やコレステロールを抑えるのかで違います。何の目的でどんなサプリメントをとるのかを、自ら把握してほしいですね。
疑問があれば積極的にメーカーに問い合わせを
――インターネットを使いこなせない消費者は、ウェブの掲載情報へのアクセスが厳しいのではないでしょうか。
森下 (機能表示の見方を解説した)パンフレットが作成されるので、それを見てもらうことになります。また抗加齢協会では、消費者に分かりやすい解説本を企画しています。こうした冊子は、今後複数出てくるでしょう。
――今後は消費者も「意識改革」が必要になりそうですね。
森下 情報を出すと「消費者が間違える」「だまされる」と心配する人がいますが、そんなことはないはずです。判断材料としてあらゆる情報を公開すべきですし、消費者も勉強してもらいたい。
企業側としては、これまでは電話で問い合わせを受けても(機能性について)答えてはいけませんでした。今後は可能になります。消費者は、疑問があれば積極的にメーカーに質問して、納得したうえで商品を購入していただきたいです。また薬剤師や、健康食品の摂取について助言ができる「サプリメントアドバイザー」が今後、どの食品がどんな機能性を持っていて、健康増進に使えないかを説明できるようになると、消費者も安心できるようになるでしょう。
米国では「栄養補助食品健康教育法」があります。法律自体が健康教育のために定められました。機能性表示により情報が明らかになったことで、「何を摂取すればよいか」を考えて食事を変えたり、運動量を増やしたりするなど人々のライフスタイルが変わったと言われています。日本でも今後、同じ効果が期待できそうです。(おわり)
プロフィル
森下竜一(もりした りゅういち)
大阪大学臨床遺伝治療学・安倍内閣規制改革会議委員、健康医療戦略室戦略参与
医学博士。抗加齢医学専門医、老年病学会指導医、臨床内科認定医。1987年大阪大学医学部卒業。1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業。同年、米国スタンフォード大学循環器科研究員。2003年大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授。2013年より内閣府規制改革会議委員、内閣官房 健康・医療戦略室戦略参与(本部長 安倍晋三)、大阪府・市特別参与などを務める。主な受賞歴にアメリカ高血圧評議会HarryGoldbratt賞、日本医師会研究奨励賞、日本循環器学会佐藤賞、産官学連携推進功労者表彰産官学連携文学部科学大臣賞がある。
日本高血圧学会、日本抗加齢医学会、日本遺伝子治療学会、日本ベンチャー学会などの理事も務めている。