事業者の責任に基づいて食品の機能性表示を認める新制度が、2015年4月1日に始まった。健康食品ではこれまでは許されていなかった、体のどの部位にどんな効果があるかを商品ラベルに記載できるようになった。
メーカーにとっては、ビジネスチャンス拡大が期待できそうだ。一方でこの制度では、消費者庁による審査は実施されず必要情報の届出だけで機能性表示ができるようになるため、消費者のリスクを懸念する声もある。
ほぼすべての食品対象、ただし健康増進目的のもの
国が機能性の表示を認めていたのは、これまで特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品の2つだったが、新たに機能性表示食品が加わった。トクホは国の審査や許可が必要で、栄養機能食品は、許可申請は不要だがビタミンとミネラルの機能に限られる。これに対して機能性表示食品の場合、アルコール類など一部を除き、生鮮食品を含めほぼすべての食品が対象となる。ただし病人向けではなく、健康の維持増進を目的としていなければならない。サプリメントほか健康食品も、該当する。
「ぼやけが気になる人に」「最近体が重いと感じる」「階段の上り下りが大変になってきた」――。サプリメントの販売では、従来こういった宣伝文句が使われてきた。「目にきく」といった体の部位を特定した表現が許されなかったため、メーカー側は写真やイラストを駆使してイメージを伝えるしかなかった。機能性表示食品制度では、健康増進に役立つ科学的根拠をメーカーが用意し、消費者庁に届け出ることで、メーカーの責任において例えば「体脂肪を減らす」のように具体的に記述できる。
消費者庁のパンフレットによると、「科学的根拠」は、最終製品を用いた臨床試験か、製品または成分に関する文献調査(研究レビュー)によって示す必要がある。「研究レビュー」の場合は国内外の論文を集め、機能性について肯定的、否定的両方の内容を総合的に判断する。
機能性が認められれば、決められた方法にのっとって商品のパッケージに表示される。そこには消費者庁に届け出た際に付与される番号が記されており、同庁のウェブサイト上でこの番号を使って商品の安全性、機能性の詳細や事業者情報を確認できる。販売後も消費者庁が中心となって製品を監視するという。
米国では表示の適切性に問題ありとの指摘も
トクホとの大きな違いは、国の審査を受けない点だ。事業者の届出が認められれば、「体のココにいい」という言い方が可能になる。消費者庁のサイトで公開されている「届出情報の詳細」を見ると、これまで企業が届け出た「表示しようとする機能性」の記述は、例えば「本品にはヒアルロン酸Naが含まれます。ヒアルロン酸Naは肌の潤いに役立つことが報告されています」や、「本品にはコラーゲンペプチドが含まれるので、膝関節の曲げ伸ばしを助ける機能があります」がある。
だが新制度に対しては、第三者による厳しいチェックが入らないままで大丈夫かという意見もある。
主婦連合会は2015年4月10日付で、内閣府消費者担当大臣や消費者庁長官らに向けて機能性表示食品制度の見直しを求める文書をウェブサイト上に掲載した。「機能性や安全性の判断を事業者に託し、事業者の責任で表示させようというもの」「届出内容の審査、チェックを行なわないことを消費者庁は明言しています」と指摘したうえで、「届出情報を公開するからといって、消費者自身が安全と機能を検証することはおよそ不可能です。本制度は、責任を事業者に、リスクを全面的に消費者に引き受けさせる極めて問題のある制度」と厳しい。
米国では、1994年制定の栄養補助食品健康教育法に基づく機能表示制度がある。日本の制度は製品発売前に消費者庁に届ける義務があるが、米国では製品の発売後30日以内に連邦食品医薬品局(FDA)に届出を済ませればよい。消費者庁の資料によると、米当局が体重減少および免疫機能に関する製品127品について表示の適切性を調査したところ、事業者から提出されたヒト研究557件のうち、有効性に関する表示内容の実証に重要な「表示の意味」「表示とそのエビデンスとの関連性」「エビデンスの質」「エビデンスの総合性」の4点すべてを考慮したと考えられるものは、1つもなかったそうだ。ほかにも7%の製品で、記載が必須である免責表示がなかったり、20%の製品で疾病に関する表示があったりと、問題点が指摘されている。
国内では、機能性表示の届出は2015年4月1日にスタートし、早ければ6月には商品が店頭に並ぶとみられる。機能性表示は消費者にとって十分信用できるのか、課題は何か。次回から2回にわたり、政府の規制改革会議委員を務めている大阪大学大学院・森下竜一教授に、新制度の論点についてインタビューする。