教育評論家・尾木直樹さん(68)が2015年5月17日のブログ記事で痛烈に批判した某新聞社系週刊誌とは「AERA」のことだった。発行元の朝日新聞出版(東京都中央区)が取材に対して明かした。
尾木さんが批判したのは、AERAの編集方針ともいえる部分。取材で入手したコメントを自分たちに都合良く調整している、というものだ。
「なんか裏切られた思い」
ブログによると、取材依頼をうけた尾木さんは下調べを行った上で、30分にわたり回答したという。
しかし、校正用に刷った原稿を確認する「ゲラチェック」の段階で、異変に気付く。なんと、使われていたのはコメントの主要部分ではなく「付録」として話した内容。それも都合のいい部分だけ利用されていたというのだ。
紙媒体で世に出れば、一生残ってしまう。尾木さんはそんな思いから編集部に抗議、「だったら最初からそこを質問項目にしておくべきでしょう...こちらだって忙しくても、もっと正確にちゃんと答えたい」と心情を吐露している。
なんとか締め切り寸前に原稿を修正させたものの、「大変不快極まりない」と怒りを隠せない様子だ。
尾木さんは、その週刊誌について「大新聞社発行のこれまで何度も協力してきた媒体」とのみ明かしていた。しかし、尾木さんが寄せていた信頼は、あっさり裏切られる。その反動か、「最近ではスポーツ紙でもこんな扱い受けません」「一人の取材記者の問題では済まされない編集部全体、新聞社全体の我田引水的な取材姿勢の問題だ」と強い不快感を示している。
ブログを読む限り、修正後の原稿はすでに発売されているようだ。ネットでは早速「どこの週刊誌なのでしょう?」「その新聞社名の公表頑張ってお願いします」といった声も上がっていた。
AERA「取材経緯は申し上げられない」
日本雑誌協会(JMPA)の公式サイトによると、新聞社系出版社が現在発行している週刊誌は4つある。朝日新聞出版が発行する「AERA」「週刊朝日」、毎日新聞出版が発行する「サンデー毎日」「週刊エコノミスト」だ。両社はかつて「朝日新聞社出版局」「毎日新聞社出版局」という名で、新聞社の1セクションだった。
今週発売の4誌を確認したところ、尾木さんのコメントを掲載しているのはAERA(5月25日号)のみだった。「娘が父に綴った16枚の中退決意 いま、そこにある『教育格差』」と題した記事で、世帯収入と教育格差の関係を浮き彫りにしている。
経済的な事情で塾や家庭教師を利用できない子どもを対象にした施設が紹介された後、尾木さんは登場する。まず、「日本の教育は、すでに崩壊している」と警告し、「以前は、学校や企業は教育を支援するのが当然で、頑張れば成果が出るという右肩上がりの社会でした。しかし、2000年頃から広がった新自由主義が日本を全く別の国に変えてしまった。アメリカ型の弱肉強食社会になり、経済格差が学力格差に直結するようになりました」と指摘している。
その後、高校までは抽選で学校を振り分ける韓国の「平準化」政策、返済しなくても良い米ハーバード大の給付型奨学金に触れ、「意欲と能力があれば、経済状況に関係なく満足のいく学習ができる体制を国が整えるべきだ」と提言している。
実は、尾木さんはAERAに今までも度々コメントを残している。10年6月21日号では当時世間を騒がせた川崎市立中学3年の男子生徒自殺について「(男子生徒の)悔しさは相当なもの」と発言、13年7月1日号では特色を持った独自指導を行う小学校を「パフォーマンス」と批判するなど、教育関係の記事では頻繁に名前を見かける。
さらに、12年4月16日号では「現代の肖像」にも登場している。毎週、ある人物のバックグラウンドや思想などに深く迫るAERAの名物企画だ。
尾木さんは発売日前日の12年4月8日、ブログで「現代の肖像」記事を紹介した際はこう感想を漏らしていた。
「よく見て よく聞いて よく書いた 感心 TVと違って 広がり 奥深さ 感じます!」
今回、朝日新聞出版は取材に対し、尾木さんの批判した週刊誌が「AERA」であると認めた。しかし、それ以外は「取材経緯なので、何も申し上げられない」とのみ回答した。