投薬による治療しかないと思われていた「うつ病」に、新たな方法が確立されるかもしれない。
「磁気刺激治療(TMS)」と呼ばれるやり方だ。厚生労働省の認可を受けていない医療機器なので、社会保険などが適用されず費用が高いなどの課題があるものの、米国ではFDA(米食品医薬品局=日本の厚生労働省にあたる)が認可、成果を上げているという。
投薬治療は「非定型うつ病」と「2型双極性障害」には効きにくい
うつ病は「定型うつ病」と「非定型うつ病」と、「双極性障害」の1型と2型の4つに大別できる。
新宿メンタルクリニックの川口佑院長は、「定型うつ病は、一般的にメランコリーな状況に陥るうつ病です。定型型は投薬治療でも効果が見られます。しかし、非定型うつ病と2型双極性障害の患者さんは抗うつ剤での改善効果はあまり見られません」と指摘する。
非定型うつ病と2型双極性障害は、患者によって症状に差はあるものの、激しい昂揚感(躁)と激しい虚脱感(うつ)を繰り返す「躁うつ病」的な症状を示す。
「本人が病院にかかるときは、うつ病だと思っていますが、じつは躁の状態にあることを本人が認識していなかったり、周囲が見てもわからなかったりすることがあります。そのため、病院では『定型うつ病』と判断してしまうことがあるのです」(川口院長)。
薬を飲んでいるのに効かない、投薬治療のため、もう何年も病院に通っているのに一向によくならない。こうした状態に陥るのには、そんな背景があるという。
新しい治療法は「ニューロスター」(米ニューロネティクス社製)という特殊な機器を用いて頭部に磁気刺激を与え、脳の前頭葉を調整するというものだ。
川口院長はその原理を、「認知や意欲、判断を司る、前頭葉のDLPFC(左背外側前頭前野)の機能が低下すると、脳の奥にあり、恐怖や不安、悲しみなどを司る扁桃体の過剰活動を抑制できなくなります。それによって、うつ病の症状が現れてくるのです。そこでDLPFCに磁気を当てて刺激することで判断力や意欲を高め、二次的に扁桃体の過活動にブレーキをかけることができるようになるので脳の機能を回復するわけです」と説明する。
TMS、診療費は1セット180万円
この磁気刺激療法(TMS)の効果は、日本でも徐々に認められつつある。
昭和大学烏山病院の岩波明院長は、「うつ病に対するTMSの効果は、少なくても投薬と同等かそれ以上のものです。副作用はごくわずかで安全性が高いほか、外来で治すことが可能で、治療中に治療者との会話もできます。つまり、患者さんの安心感が高いわけです」と話す。
しかし、TMSは日本ではまだ医療(薬事)行為として認められていない。自由診療、あるいは一部の医療機関が行っているうつ病治療でのTMSの臨床研究に、治験者として参加するしかないのが実情で、厚生労働省が現在、薬事承認を審査している最中だ。
つまり保険などが使えず、医療費がかさむのが「弱点」というわけだ。
米国では2008年にFDA(米厚生省)が認可。TMSはすでに、米国内で500か所以上の医療機関に導入されている。もちろん保険が適用され、活発に利用されている。
一方、日本で唯一大規模なTMS治療施設をもつ新宿メンタルクリニックの例では、自由診療ということもあり、1回30~40分の診療を1セット(30回)行う治療で、およそ180万円かかるという。
国立精神神経医療研究センター病院・精神先進医療科の鬼頭伸輔医師は、「TMSは抗うつ剤による治療が効かなかった患者さんの約3割に効果が見込めることが、これまでの臨床結果などからわかっています」と、その効果については期待を寄せながらも、「(TMSの)治療は、それだけ患者さんに経済的にも時間的にも負担がかかってしまいます。通常は、中等度以上の患者さんには投薬治療からはじめるのが手順。効果が見込めるからといって、いきなりTMSでの治療というのはリスクがあります」と、慎重な運用を提案している。
日本国内のうつ病患者は年々増加する傾向にある。厚労省によると、1996年は43.3万人だったが、2011年には95.8万人に達している。