韓国の国会が2か月の1回のペースで対日非難決議を採択していることは、意外に知られていない。だが、2015年5月12日に在籍議員238人の全会一致で採択された決議は、日本政府ではなく安倍晋三首相を名指しするという点で珍しい。
この決議には日本側が「非礼でまったく受け入れられない」と強く反発しているのはもちろん、一部韓国紙からも「戦略がない」いった否定的な意見が出ている。
米国で「侵略と植民地支配、日本軍慰安婦問題に言及せず」と非難
全会一致で採択されたのは、「侵略の歴史と慰安婦への反省ない日本安倍首相糾弾決議案」と題した決議案で、15年4月の安倍首相の訪米時の発言について
「侵略と植民地支配、日本軍慰安婦問題に言及せず、外面で繰り返し『人身売買』などの巧みな(印象)操作で慰安婦問題の本質をそらし、反人権的な行動を見せていることについて強く糾弾する」
などと非難する内容だ。
これとは別に、日本政府がいわゆる「軍艦島」(長崎市)など23施設を「明治日本の産業革命遺産」として世界文化遺産登録を目指していることについても、そのうち7施設で朝鮮半島からの強制徴用が行われたとして「北東アジアの平和と安定に深刻な悪影響を与える外交的挑発行為」などと糾弾する決議を採択している。
この2つの決議のうち、安倍首相に対する決議案には国内からも異論が出ている。ソウル新聞のコラム「汝矣島(ヨイド)ブログ」では、「戦略のない日本・安倍首相糾弾決議案」と題してこの問題を取り上げた。コラムのタイトルになっている汝矣島には、国会に加えてテレビ局、証券会社などが集中していることが知られている。
コラムによると、13年2月の朴槿恵政権発足以来、国会に提出された日本関連の糾弾決議案は36件で、そのうち本会議で可決されたのは今回を含めて13件。実に2か月に1回のペースで可決されていることになり、「糾弾決議案自体が乱発されているレベル」だ。
さらに、これら36件の決議案は主に日本政府にあてたもので、安倍首相個人を批判した決議案は、13年12月の靖国神社参拝を批判するものだけだった。こういったことから、外交上のリスクを指摘した。
「主な外交相手国の首脳の名前を決議案に載せる『実名糾弾決議案』は非常に異例。相手がある外交関係では悪影響が避けられない」
菅官房長官「友好国の首相を名指しする形の決議を行うことは非礼」
コラムでは、決議では靖国神社参拝や不適切発言など特定の行為を対象に批判するのではなく、訪米中に「反省を表さない」安倍首相の態度全体を問題視しているとして、
「決議案では『一抹の謝罪もなかったという点に慨嘆』、『慰安婦問題を無視する反人権的な行動』という曖昧な表現にとどまった。安倍首相を実名で糾弾しながら『反省していない』では、極めて韓国式な情緒にだけ訴えていることになる」
などと決議には安倍首相を批判するに足る具体的で論理的な根拠に乏しいことを指摘している。
ソウル新聞のコラムを執筆した記者が懸念したように、日本側は名指しの決議に強く反発している。菅義偉官房長官は5月13日午後の会見で、
「先般、安倍総理が訪米された際、米議会での演説、皆さんもご覧になったとおり、しっかりと発言をされ、そして米国から大きな評価をいただいたのではないか。こうした事実を全く踏まえずに、今ご指摘のような国会決議が行われたことは誠に遺憾。さらに、友好国の首相を名指しする形で、このような決議を行うことは非礼と言わざるを得ない。まったく受け入れることができない」
などと決議を強く非難。世界遺産に関する決議についても、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)がすでに登録が適切だと判断したことを理由に、
「韓国が主張する政治的主張というのは、こうしたことに持ち込むべきではないと思う」
と突っぱねた。