日本マクドナルド(東京都新宿区)は2015年5月11日、母親がメニューや店舗、自社の食品加工工場について意見を述べる取り組み「ママズ・アイ・プロジェクト」を開始すると発表した。
プロジェクトのコンセプトは「食品について特に厳しい目を持つのは、いつも家族のことを想う母親(ママ)である」。一連の異物混入事件などで離れた女性客やファミリー客を呼び戻す作戦とみられるが、ネット上では厳しい意見が目立つ。食の専門家も「飲食店のプロが素人に意見を求めるのは論外」と手厳しい。
女性層やファミリー層の客離れが一番深刻
「ママズ・アイ・プロジェクト」ではまず、確認したい、見たい部分を一般客から広く募集する。これは公式ツイッターアカウントで5月11日から、特設サイトで14日から始まっており、母親でなくとも応募できる。
次に集まった意見や質問をとりまとめ、5月から月1回実施される意見交換会「Mom's Eye Table(ママズ・アイ・テーブル)」で提示する。参加者はサラ・カサノバ社長を含む社員とマクドナルド側の選んだ「食や栄養に関心が高い現役ママ」5~6人、同じくプロジェクトリーダーに任命された放送作家・鈴木おさむさん(43)の予定だ。
ちなみに、「現役ママ」の多くは料理評論家、フードコーディネーターなどの肩書でメディアに登場している。
意見交換会に参加した母親は国内店舗や、新しい鶏肉の仕入れ先となったタイの食品加工工場を視察する。これには、一般の母親の公募も計画しているという。その後、視察した内容をレポートにまとめて特設サイトや店頭配布パンフレットなどに公開するという流れだ。視察先についてはあらかじめ店舗や工場が挙げられているものの、「いつ・どこへ行くかは、『Mom's Eye Table』での話し合いの中で決めてまいります」と変更の可能性も示唆している。
カサノバ社長は11日に記者会見し、女性層やファミリー層の客離れが一番深刻だと説明。母親の目で安全に関する取り組みをチェックしてもらい、信頼回復につなげたい考えを示した。
マクドナルドは迷走を続けている。14年7月、商品原材料の調達先だった中国の食肉加工会社が消費期限切れ鶏肉を使っていた事実が発覚。
さらには14年後半から15年初頭にかけて、ネットを中心に商品への異物混入報告が相次いだ。
14年8月、顧客を取り戻すべく全店禁煙に踏み切ったものの、結局売り上げ回復には結び付かなかった。現在、日本マクドナルドホールディングスの既存店売上高は14年2月から15か月連続のマイナスだ。15年4月には不採算店を含む190店舗を閉店し、本社社員を対象に早期退職を約100人募ると公表している。
「ママズ・アイ・プロジェクト」はそんなマクドナルドが打ち出した「窮余の一策」とも言える作戦だった。
「外食産業に携わる者が素人に意見を求めるのは論外」
しかし、ネット上には厳しい指摘が目立つ。
ツイッターには、
「もはや何がしたいのか分からん」
「それ以前の問題なんだって!」
「食の安全性に厳しい母親は、そもそもマックなんか行かんでしょ」
「参加する『母親』は一体何者なんだ。子育、家事、仕事もしてれば中々参加できない」
とプロジェクトの狙いやコンセプトを批判する声が続々寄せられている。
全体的には、原材料の詳細表示や衛生管理など飲食店経営の基礎固めをするよう促す声が多い。
プロも苦言を呈する。「『外食の裏側』を見抜くプロの全スキル、教えます」(東洋経済新報社)などの著作で知られる食品安全教育研究所代表の河岸宏和さんは「外食産業に携わる者が素人に意見を求めるのは論外」「プロは素人の見本になるべきです」と言い放つ。
プロジェクトを貫く「ママ目線」については、「母親に意見を求めるのではなく、主婦が感心するくらい徹底した清掃をお店では行うべきだ」とした。
では、マクドナルドが信頼を回復するにはどうすればいいのか。
「工場では原料の詳細、添加物、製造方法、原産地について、透明性をもって公開するのが一番の信頼回復の道です」
まずは基本的な部分から着実に、これがマクドナルドに残された唯一の道なのかもしれない。