大阪市を廃止して現行24区を5つの特別区に再編する「大阪都構想」の是非を問う住民投票が2015年5月17日に迫り、賛成・反対の両陣営は背水の陣で訴えに臨んでいる。
構想を主導する大阪維新の会の橋下徹代表(大阪市長)は、この住民投票は「1回限り」で、否決された際には構想を断念し、政治家を引退することを繰り返し表明している。ただ、橋下氏は過去には大阪府知事選への出馬を「2万%でも、何%でもあり得ない」と否定しておきながら一転出馬し、当選したという経緯があるだけに、「本気度」を問う声も出そうだ。
「政治家としてまったく能力がないということ」
投票日前の「ラストサンデー」となった5月10日には、自民、民主、共産各党の国会議員が前代未聞の「呉越同舟」の合同演説会を開き、都構想への反対を訴えた。一方の橋下氏は5月9日にテレビ東京で放送された「田勢康弘の週刊ニュース新書」にVTRで出演。都構想の実現を訴えた。橋下氏は住民投票で賛成が過半数に及ばなかった場合は「政治家を辞める」と表明しており、この番組でも同様の発言を繰り返した。
5つの質問に○か×の札を上げて答えるコーナーで、橋下氏は「住民投票で負けたら政治家を辞める?」という問いに○の札を上げ、こう説明した。
「だって、住民の皆さんの考え方とか、住民の皆さんの気持ちをくむのが政治家の仕事なわけだから、ここまで5年間精力かけてやってきたことが、大阪市民の皆さんに否定されるということは、政治家としてまったく能力がないということ。早々とそんなら政治家辞めないと、危なくてしょうがない。運転能力のない者がハンドル握るようなもんでね、早く辞めなきゃダメですよ」
橋下氏は引退のタイミングについて、番組では「早く」と述べたが、別の機会には「大阪市長の任期(15年12月まで)はまっとうする」とも述べており、若干の幅がある。ただ、橋下氏は前言を翻すことも多く、過半数の賛成が得られなかった場合の進退表明がどうなるかは見通せない。
「2万%でも、何%でもあり得ない」と完全否定した「前科」も
例えば大阪府知事選の告示を約1か月後に控えた07年12月、橋下氏は出馬の動きを報じられて、
「仕事をほっぽり出すような人間が行政のトップなんて立てるわけない」
「もう何%でもいい。2万%でも、何%でもあり得ない」
などと完全に否定。にもかかわらず橋下氏は出馬し当選したという経緯がある。それ以前にも「出馬しない」発言が翻された例がある。
現時点の各紙の世論調査では賛成派が劣勢だ。共同通信の調査では賛成39.5%に対して反対47.8%、朝日新聞と朝日放送(ABC)の調査では賛成33%に対して反対が43%、読売新聞の調査では賛成34%、反対50%だった。ただ、朝日・ABCの前回15年4月調査では賛成36.7%、反対47.5%で、今回の調査では賛成と反対の差が縮まっているともいえ、情勢は流動的だ。