「世紀の一戦」と注目を集めたボクシング世界ウエルター級タイトルマッチ。
敗者が負傷を隠して試合をしたとして集団訴訟されるなど、戦いは場外戦に持ち込まれた。
「オレは肩を負傷していた」「負け惜しみを言うな」
フロイド・メイウェザー(米国、38歳)がマニー・パッキャオ(フィリピン、36歳)に判定勝ち。2015年5月2日に米ネバダ州ラスベガスで行われた試合は、大物同士の対決とあって対戦前から大騒ぎで、まさに世界注目の的だった。
試合後、敗者が余計な一言を公言した。
「実は、オレは肩を負傷していたんだ」
勝者はこれに対し、言い返した。
「負け惜しみを言うな。素直に、相手が強かった、と言えばいい」
ところが第2ラウンドはこんなことで終わらなかった。ネバダ州の住民が敗者陣営を相手に集団訴訟を起こしたのからである。
「パッキャオの負傷は戦いに深刻な影響を与えることは分かっていた」
「その情報を知らされていないファンは高額のチケットを買わされた。有料放送も見せられた」
請求の損害賠償額は500万ドル(約6億円)以上という。
住民は、パッキャオは事前にネバダ州立体育委員会に負傷の事実を報告する義務を怠った、という。パッキャオ側は、体育委員会は試合当日に必要な治療をすることを拒否した、と反論している。
チケット代は「絶対言えない」金額
この場外戦はスケールが大きい。
試合そのものの総収入が4億ドル(479億円)とケタ外れ。主な収入は入場料が7200万ドル(86億円)、有料放送料3億ドル(360億円)など。
MGMグランドホテル内で行われたのだが、1万6800人収容なのに発売された入場券は1000枚ほどだったからというから、とっくに関係者からさばかれていたらしい。
プレミアもいいところで、リングサイドは最高35万ドル(4200万円)まで跳ね上がったという。観客の中にはクリント・イーストウッドらのハリウッドスターがずらり。ゴルフの世界一選手ロリー・マキロイもチケットを購入したが、金額は「絶対言えない」と口外できないほどの額だったことが分かる。
パッキャオの母国での騒ぎも半端ではなかった。4月下旬に記念切手が発売され、50時間ほどで完売したという。試合直前には記念ケーキが日本円で3万円ほどで売られた。まさに国民的ヒーローなのである。
さらにとんでもない話が出てきた、カンボジアの首相が友人とのカケをし、パッキャオが負けたことに腹を立て、掛け金(60万円ほど)を支払わない、と公言する一幕もあった。
世界有数のAP、ロイター、AFPなどの通信社が各国の情報を報じるなど、試合後も世界的関心が高い。日本では想像もできないことが起きている。
パッキャオは試合から数日後に手術。復帰まで1年ぐらいかかるという。ロサンゼルスでの精密検査では「ひどい損傷」だったというから、簡単に解決しそうもない長丁場の場外戦になりそう。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)