国産のコメをエサにした鶏卵や豚肉などが、私たちの食卓に並ぶ日は近いのか? 日本人のコメ離れに合わせ、政府とJAグループが稲作農家に主食用米から家畜向け飼料用米への作付転換を呼びかけている。日本国内の主食用米の需要は毎年約8万トンずつ減少し、稲作農家にとって米価回復は望めない。
そこで政府は「需要に応じた生産を進めるとともに、水田をフル活用するには主食用米から、需要のある飼料用米への転換を進めていく必要がある」と判断し、飼料用米の生産拡大を2015年3月末に閣議決定したのだ。
国産の飼料で食料自給率を引き上げる狙いも
全国には既に飼料用米を使った豚肉「こめ育ち豚」(山形県酒田市の平田牧場)や、鶏卵「こめたま」(青森県藤崎町のトキワ養鶏)などのブランド品が登場しているが、飼料用米は主食用米に比べて稲作農家の収入が少なくなるため、政府が穴埋めとして交付金を支払っている。果たして飼料用米の生産・消費が進むのか、農家ならずとも気になるところだ。
飼料用米は米国からの輸入トウモロコシなどの代替飼料として、これまでも一部で流通していた。しかし、輸入飼料に比べ割高なため、本格的には普及してこなかった。2014年産の場合、主食用米が788万トンあるのに対して、飼料用米は17万トンに過ぎない。
国民1人当たりの主食米の年間消費量は、1962年度の118キロをピークに2013年度は57キロに減少しており、コメの需要は毎年8万トンずつ減少している。このコメの需要減退を補う切り札として、政府が進めるのが飼料用米というわけだ。稲作農家を守るだけでなく、国産の飼料で食料自給率を引き上げる狙いもある。
国産の安全なコメを飼料とする高付加価値のブランド畜産品はすでに誕生している。トキワ養鶏の「こめたま」は、地元・青森産の飼料用米を最大68%配合した飼料を活用。卵黄がレモンイエローのように薄いのが特徴だ。鶏卵はニワトリに与えるエサで卵黄の色も味も変わる。「こめたま」は生活協同組合やトキワ養鶏のインターネットサイトでも販売し、人気を呼んでいる。
豚肉では山形県の平田牧場のほか、神奈川県平塚市のフリーデンが岩手産の飼料用米を使った「やまと豚米らぶ」を百貨店などで販売している。農水省は「国産飼料であることや、水田の活用に有効であることをアピールし、飼料用米に理解を示す消費者から支持を集めつつある」という。
日本の食料自給率を上げるため必要なコストか
しかし、飼料用米を使ったブランド品の開発で成功した先例は、まだ限られている。JA全農グループは2015年産の飼料用米について、2014年産米の3倍強となる60万トンを目標に生産農家から買い取り、自ら保管・流通・販売する戦略を描く。JAグループには「主食用米の生産数量目標(減反)を守るだけでは米価回復は望めない」との危機感があるからだ。
農水省によると、2015年度は国内の畜産農家から新たに199件、約4.4万トンの飼料用米の需要が生まれるというが、果たして飼料用米の普及が進むかは未知数だ。農水省は数年前、コメ余り対策の切り札として米粉の普及を目指したが、米粉の生産は2011年の4万トンをピークに2014年は1万8000トンに縮小するなど、普及は進まなかった。
気になるのは、飼料用米や米粉米の生産農家には、主食用米との収入格差を穴埋めするため、政府が交付金を支給していることだ。「水田活用の直接支払交付金」と呼ばれるこの制度は、主食用米から飼料用米や米粉用米に切り替えると、収量に応じて10アール当たり5万5000円から10万5000円を支給する。この交付金の総額は2015年度、2770億円にもなる見込み。稲作農家を守り、日本の食料自給率を上げるため、必要なコストとみるか否か、判断が分かれるところではある。