有害物質が脳細胞に入らないよう守っている「血液脳関門」を通過し、自由に薬を届けるのにJCRファーマ株式会社(本社・兵庫県芦屋市)が成功した。
同社は2015年4月20日、この技術を利用した第1号治療薬の開発に着手したと発表した。
サルの実験でも確認
脳血管の内皮細胞は、血液中の低分子物質は通すので脳細胞に届くものの、分子量の多い高分子物質は通さない性質がある。このため、多くの薬は血液から脳細胞に入れることができず、十分な治療ができないことが多い。脳の病気の治療には、血液脳関門の通過技術が世界的な課題となっていた。
JCRファーマ社は小児の酵素欠損病・ライソゾーム病の治療薬の開発研究中、通過技術を発見した。脳血管の内皮細胞表面のレセプターにあるたんぱく質が結合すると、一緒に細胞内を通り抜ける。このたんぱく質に高分子の薬を結合させると、その薬も細胞内を通り抜けて脳細胞に届く。ライソゾーム病の一つ「ムコ多糖症2型」 (ハンター病) のモデルマウスを使った実験では薬 (治療用酵素) は着実に脳細胞に到達し、効果は顕著、特別な副作用は認められなかった。また、サルでも薬の到達は確認できた。高分子の質量は少なくとも100 キロダルトン (分子量10万) 程度までは問題がない。
通過を助けるたんぱく質について、同社は詳細な説明を避けたが、1種類ではなく、複数が見つかっている。3月に特許を申請したという。
同社はこの技術の最初の応用として「ムコ多糖症2型」薬の臨床試験を2016年度内に始める予定だ。また、血液から脳細胞に薬が届けば、アルツハイマー病、パーキンソン病などをはじめ、多くの病気で治療が格段に進んだり、容易になる可能性がある。同社は、そうした薬を持つ製薬企業と協力して血液脳関門通過薬の開発を進めたい、としている。
(医療ジャーナリスト・田辺功)