ゴールデンウイーク初日の2015年4月29日、東北新幹線が停電のため一時全線で運転見合わせとなった。
乗客への影響はもちろん甚大、駅はさぞかし混乱しているのかと思いきや――。記者が現場で見たのは、「ハッスル」しているマスコミばかりだった。
まるでVIPの「出待ち」状態
「これ、誰か(有名人が)見えられるんですか?」
13時半ごろ。東京駅の改札前に立っていた記者は、不思議そうな表情をした老婦人に呼び止められた。
勘違いするのも無理はない。辺りには、大きなビデオカメラを抱えたテレビ局のクルー、アナウンサー、望遠レンズで改札内を狙う新聞社のカメラマンなど、一見して取材陣とわかる人々がずらりと並んでいる。特にテレビは、NHKと在京キー局が全局そろって「お出まし」で、それこそVIPでも来るのか、という光景。一方の利用客は諦めて昼食に出かけたり、あるいは片隅に腰かけたりしている。マスコミの姿ばかりが目立つ印象だ。
29日11時半ごろ、福島県の郡山駅構内で起こった架線トラブルの影響で停電が発生、東北新幹線は東京~新青森の全線で、16時までの約4時間余りにわたって運転を見合わせる事態となった。
乗客たちにとってはまさに災難以外の何物でもないが、「GW初日、電車が動かず困り果てる旅行客たち」――というのは、夕方のニュースやワイドショーにうってつけの「おいしい」素材だ。
子連れの母親に素早く「すみませ~ん」
かくして東京駅に押し掛けたマスコミは、「使える絵」を確保しようと一生懸命だ。
「一番人気」なのは、なんといっても子連れの乗客。小さい子どもの手を引く母親が現れると、クルーは素早く近づき、「すみませーん、×××テレビのものですが......」。乗り遅れた他局の取材陣は、遠巻きにそれを眺めながら、次の取材対象を探す。
「駅員に復旧予定を尋ねる人」もなかなか人気で、こちらもいつの間にか、肩をなめるようなアングルでカメラが背後に立っている。
そのすぐ近くでは別の局の女性リポーターが、現場中継のためのリハーサル中。
ちょっと外れたところでは、いかにも「業界人」ぽい服装の男性が、若いスタッフに指示を飛ばしている。「階段のところに座っている人と、改札と......」――。どうやら、乗客のコメント以外で必要になりそうなカットを確保するように命じているらしい。
ミヤネ屋「覗いてきましたが、混乱等ございません」
一方、肝心の乗客はどうだったのか。トップニュースでこの話題を伝えた「ミヤネ屋」(読売テレビ)は、東京駅からこうリポートした。
「駅構内、先ほど私覗いてきましたが、大きな混乱等はございません」
実際、改札前にはそれほど大勢の人が集まっているわけでもなく、またその乗客たちもただ平静に運転再開を待っていた。「GWの旅行客が困惑!」という状況を伝えようと「奮闘」するマスコミは、かえって浮いてさえいるように見えた。
なお、これは東京駅に限ったことではなかったようで、トラブルがあった郡山駅周辺では、報道各社のものと見られる複数のヘリなどが上空を飛び交い、地元住民を驚かせたことが、ツイッターで報告されている。