多くのベンチャー企業が株式を上場する東京証券取引所の新興市場の不振が際立っている。1部上場の優良225銘柄で構成する日経平均株価が2015年4月、15年ぶりに2万円の大台を回復したのと対照的に、マザーズ市場は昨年末の終値を下回る足踏み状態が続く。
複数の企業による粉飾まがいの業績修正が相次いだことで、短期利ざや狙いの個人投資家や海外勢が敬遠しているようだ。
ひんしゅくを買った企業は1社ではない
「これは(公開市場の)悪用です。決算数字の黒字を赤字にしてしまうなんてありえない」
東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)の斉藤惇グループ最高経営責任者(CEO)が3月下旬の記者会見でめずらしく声を荒げた。新規株式公開(IPO)企業をめぐり、昨年末から「不適切な事案」が相次いでいることに対してだ。
斉藤CEOは個別企業の名指しは避けたが、今年に入って市場関係者のひんしゅくを買った企業は1社ではない。
筆頭格は、オンラインゲームソフト大手のgumiだ。同社は2007年に創業し、2014年12月にいきなり東証1部に上場した注目企業の一つ。ところが、上場から2か月半の3月5日、2015年4月期(2014年5月~2015年4月)の業績予想の修正を発表し、黒字の予定だった営業損益、最終損益ともに赤字になることを明らかにした。
さらに同社をめぐっては、役員や出資元のベンチャーキャピタルが上場時だけでなく、その後も保有株を売却していたことが明るみに出た。公開価格は3300円だったが、上場後はずるずると値を下げ、最近は1800円前後で推移している。上場後に1度も公開価格を上回ることがない「上場ゴール」の典型例となった。
新興企業をめぐっては他にも「不適切」事例が続いている。電力の需給管理などを手がけるエナリス(2013年10月に東証マザーズ上場)も、2014年12月に太陽光発電設備の売り上げを過剰に計上する不正会計や、虚偽の決算情報を元に公募増資を実施していたことが表面化。新規上場直後に開示した2013年12月期第3四半期から2014年12月期第2四半期までの決算が虚偽だったと認定された。
東証自身も責任は逃れられない
こうした不正を受けて東証が「特設注意市場銘柄」に指定した企業は、1月以降だけでも4社にのぼり、いずれも新興企業が多いマザーズやジャスダック市場の上場企業。マザーズ全体の値動きを示す東証マザーズ指数は年初から1.5%前後下落し、15%以上値上がりした日経平均株価と明暗を分けた。
「(株式上場に関わった)証券会社や(上場前の決算監査を担当した)監査法人は(企業の業績動向や経営者の資質を)分かっているはず。しっかりしてもらいたい」
斉藤CEOはこうした企業に関わった証券会社などにも批判の矛先を向けたが、上場審査に当たった東証自身も責任は逃れられない。東証は上場審査を厳格にするため、上場時期が集中しないように運用を改善するなどの対応策を打ち出したが、市場関係者からは「今年の新規上場企業数がペースダウンすることは避けられない」との声が出ている。