建築物としての評価が高い「ホテルオークラ東京」本館が、建て替えのため取り壊しが決まり、2015年夏には閉鎖される予定だ。
50年以上前に建てられたホテルは、「日本の伝統美」を建築のコンセプトに据えて海外でも高評価を得てきた。取り壊し決定には世界の有名デザイナーらが反対を唱え、「オークラを救え」と署名活動も進んでいる。
「サヨナラ、オークラ」「日本の『取り壊し』文化の犠牲者」
1962年に開館したホテルオークラ東京は、日本を代表するホテルのひとつだ。歴代の米大統領をはじめ各国の政府要人が宿泊し、1986年には英チャールズ皇太子とダイアナ妃(当時)も訪れている。ジョン・レノンやマイケル・ジャクソンといったスーパースターもお気に入りだったようだ。
「日本的建築美の創造」をテーマに外装、内装から各種設備まで日本古来の美しい紋様を取り入れた。中でも本館ロビーは、天井から「切子玉形」の照明具が5~6個連なるように吊るされ、「オークラランタン」の愛称で親しまれてきた。オークラが2014年5月23日に本館建て替え計画を発表すると、特に海外で大きな話題となった。米ニューヨークタイムズ電子版は2014年8月15日付の社説で「サヨナラ、オークラ」と題した記事を掲載。「日本の美とモダニズムデザインが独特に融合」したホテル、その解体は「一つの時代の終わり」と評した。
米ワシントンポスト電子版は2015年2月2日付記事で、オークラは「日本の『取り壊し』文化における最新の犠牲者」と表現。米CNN日本語電子版2014年7月15日付記事では、「何でも取り壊して大きく作り直すのが主流のアジアにあって、ホテルオークラはかつて素晴らしかったものへの敬意を思い起こさせる存在だった」とする一方、「ホテル側は建て替え後も日本の伝統的な美を保つ意向だが、古い建物の趣をすべて再現するのは不可能に思える」と、建て替え後にどれだけ「遺産」が受け継がれるか不安を示した。
海外の有名人も惜しんでいる。デザイン・インテリア誌「カーサブルータス」のウェブサイトでは、「なくならないで、私のオークラ! MY MOMENT AT OKURA」と題した特設ページを開き、各界から寄せられたコメントを紹介している。ファッションデザイナーのポール・スミス氏は「クリエイティブな仕事をしている人たちが宿泊したいと思うのは、オークラなのではないでしょうか」と述べ、建築家のスティーブン・ホール氏も「オークラの本館が取り壊されるのは悲劇です」「次世代に伝えるべき宝物なのですよ」と訴えている。
なぜ日本で建て替え反対運動が起きないのか
こうした声が多く寄せられている現状に、ホテルオークラの広報担当は「現本館が日本のみならず、海外のお客様から高い評価を得てこれほどまでに惜しむ声を頂いていることに心から感謝申し上げます。このようなお客様からのご期待に沿うべく、新本館においては、最新の施設・機能を備えつつも、ホテルオークラが大切にしてきた日本の伝統美をしっかりと継承した建物でお客様をお迎えしてまいります」とコメントした。
一方で、解体反対の署名活動もインターネット上で始まっている。英誌「モノクル(MONOCLE)」は「セーブ・ザ・オークラ」というサイトをオープンし、本館保存に賛同する人たちに署名を呼び掛けている。イタリアのブランド「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイティブディレクター、トーマス・マイヤー氏はSNS(交流サイト)を活用したキャンペーンを開始した。ネットユーザーに対して、オークラで撮った写真を画像共有サイト「インスタグラム」に共通のハッシュタグを付けて投稿するよう促した。この試みを通じて、貴重な建築物の取り壊しという問題について人々の関心を高めるのが目的だ。
雑誌「アエラ」2015年2月2日号では、このマイヤー氏のプロジェクトを取り上げ、「じわじわと浸透」してきているとした。同氏は「日本を『世界でもっとも洗練された文化大国のひとつ』と絶賛するが、オークラ本館の建て替えに反対運動が起きないことは、不思議だという」と紹介されている。
2011年3月、ホテルオークラ同様に長い歴史を誇っていた「グランドプリンスホテル赤坂」(1955年開業)が営業終了した。その後建て替えが進んでいるが、「旧館」と呼ばれた1930年建設の歴史的建造物「旧李王家東京邸」は解体せず、そのまま保存される予定だ。
オークラ本館はどうなるだろうか。広報担当は、本館のインテリアや装飾について「法律の許される範囲で、新本館に継承していきたいと現在調査を進めております」と話す一方、「一部の装飾などにつきましては、解体して現状を確認した上でないと移設出来るか判断の出来ないものもございます。具体的に移設する装飾の詳細につきましては決定いたしました上でご報告をさせていただきます」とこたえた。