高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
日銀の物価見通し説明はトンチンカン 消費増税の影響、マスコミなぜ避ける

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   4月7~8日(2015年)、日銀の政策決定会合が行われた。その後の記者会見では、毎度のことであるが、昨年4月からの消費増税の影響はほとんど語られていない。このため、最近の物価の見通しについて、かなりトンチンカンな説明になっている。

   消費増税の影響を除いた消費者物価対前年同月比は「当面はゼロ%程度で推移する」というものの、なぜそうなったのかの説明がないので、今後の展開や追加緩和の見通しがはっきりしないのだ。

  • 日銀の政策決定会合後、総裁会見が開かれた
    日銀の政策決定会合後、総裁会見が開かれた
  • 日銀の政策決定会合後、総裁会見が開かれた

根っこを説明せず、枝葉を説明

   筆者なりに説明すれば、消費増税によって需要が落ち込んだが、1年経過してその影響が和らぎつつあるので、需要が盛り返し、物価も上がるということだ。

   この単純さに引き替え、黒田総裁の説明は複雑だ。個人消費は賃上げなどで雇用・所得環境が着実に改善している、設備投資も企業の景況感がいいから期待できる、海外も経済回復している、と消費増税という言葉を使わない。海外要因を除くと、国内要因の根っこにあるのは消費増税の影響がなくなりつつあることなのだが、根っこを説明しないで、枝葉を説明するから、まどろっこしくなる。

   黒田総裁が、消費増税を需要落ち込みの原因と言えないのは、黒田総裁自身が消費増税に積極的で、消費増税の影響は軽微であると言ったからだ。その影響は軽微どころではなく、黒田総裁の見通しは大外れであったが、それを認められないということだ。

   記者会見に出ているマスコミも、消費増税に賛成した大手紙などは、今さら消費増税の影響が大きかったとは言えない。だから、4月8日の記者会見では、消費増税の話を避けて、お互いが話すので、第三者からみれば、かなり滑稽な会話になっている。しかし、当事者はそれぞれ過去を背負っているからか、滑稽だということすら気がついていない。

マスコミの与太話

   政策決定会合の正式文書で、物価の見通しがどのように記述されてきたのを確認すれば、上の事情がよくわかる。

   2年前(2013年)の4月4日の「異次元緩和」以降、「プラスに転じていく」だったが、2013年8月8日から「プラス幅を次第に拡大していく」、2014年1月22日から「暫くの間、1%台前半で推移する」と強気だった。ところが、消費増税の影響が明らかになると、2014年10月31日の追加緩和、11月19日から「当面現状程度のプラス幅で推移する」と下方修正した。2015年1月21日から「エネルギー価格の下落を反映して、当面プラス幅を縮小する」、3月17日から「エネルギー価格下落の影響から、当面ゼロ%程度で推移する」と、短期的な理由を原油価格下落に求めている。

   2014年の追加緩和の際、物価見通しが下方修正されているが、このときに理由を追及できなかったマスコミが情けない。消費増税に賛成だからか、この追加緩和を消費税再増税に向けた黒田日銀の援護射撃というトーンで報じてしまった。

   時系列を追ってみれば、消費増税の影響の予測を誤った日銀が、ゴメンナサイと謝ったにすぎない。それを、マスコミが下手なストーリーに仕立てただけだ。しかも、その後の消費税解散で、このストーリーは吹き飛んだ。

   しかし、マスコミは会見では黒田総裁を持ち上げる一方、官邸との「すきま風」(産経、日経など)という報道もしている。首相と日銀総裁が本社社長と子会社社長とわかれば、対等の関係ではないのだから「すきま風」はあり得ない話だ。

   追加緩和が消費増税援護射撃とか、日銀総裁と官邸とにすきま風といった報道記事を見たら、消費増税したいマスコミのストーリー、与太話だと思ったほうがいい。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。


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